【第402回】 力と技の修練の道

武道である合気道は、稽古を長く続けなければ真の上達はない。だが、そうかといって、長く稽古を続ければうまくなる、ということでもない。うまくなりたいなら、うまくなれるよう、上達するように、稽古を長く続けていかなければならない。やるべきことをしっかりやり、まわりに振り回されず、邪心に負けないようにして、合気の道を進んでいかなければならない。

合気道は気形(技の形)の稽古で、相対で技をかけ合いながら、技の練磨をして精進していくわけだが、本格的な気形の稽古への準備段階から、さらに合気道の道を進むための段階など、いくつもの段階があるように思える。

それをまとめてみると次のようになるだろう:

第一段階:力の段階
合気道に入門した段階では、技をかけるための力はないし、基本の技の形も知らない。だが、2、3年稽古を続けると、力がつき、体力ができ、また、基本の形も一応は覚える段階である。

この段階での稽古は長く続くだろうが、その内に、形では人は倒れないし、力の強い相手には効かない、という壁にぶつかることだろう。
多くの稽古人はここで、自分の限界を悟ったり、または、怪我や病気でこの段階で挫折するようである。

第二段階:技を生みだす仕組みの要素を身につける
力の限界を悟ると、力をつかわないような稽古をしようという気になる。だが、力をつかわなければ相手は倒れてくれないわけだから、力に変わるもので補完しなければならないことになる。それが、技を生みだす仕組みの要素ということになる。

例えば、手、足、体、それに息を十字につかう、陰陽につかう等である。体や息を十字につかうと、相手の力が抜けるし、相手がくっついて、離れにくくなる。また、体の末端ではなく、中心の腰腹から動かすことで、手先の末端からの力とは違う、大きな力が出るようになる。腕力をつかわなくても、大きな力、相手とくっついてしまう力が出てくるようになるのである。

第三段階:呼吸力をつける
技を生みだす仕組みの要素から出てくるのが、呼吸力である。合気道でいう力とは、第一段階での腕力ではなく、呼吸力である。呼吸力とは、遠心力と求心力、表裏一体の力、上下左右四方隔たりのない力、ということができるだろう。

この呼吸力は、手足を振り回して生まれる力ではないので、技を生みだす仕組みの要素で養成していかなければならない。技を生みだす仕組みの要素に則ってやれば、多少、力一杯やっても相手との接点での結びは切れないから、どんどん力を入れ、呼吸力を増大していくことができるようになる。いうなれば、技を生みだす仕組みの要素と呼吸力の相乗効果ということになるだろう。ここまでが、魄の鍛錬の段階である。

第四段階:魂で導く
前段階までは、相手の力と体を、自分の力(魄)で導こうとするものである。そのままでは、相手に体力や腕力がある場合に、魄と魄のぶつかり合いになり、相手をうまく導くことが難しい。

この段階になると、魄ではなく、魂(心、念)で相手を導くようになるだろう。今まで修練した魄(腕力)を下にして、相手の魂に働きかけるのである。相手の体(魄)は、その魂によって動くことになるので、不思議なように倒れてくれるものである。魂の練磨に切り替えて稽古して行かなければならないが、力(呼吸力)の養成も引き続き行なっていかなければならない。これには終わりがないはずである。

第五段階:宇宙の力、天地の力を借りる
これまでは、自分の力(呼吸力)や自分の魂で、相手が倒れるように働きかけて、その力と魂を養成してきたわけである。だが、この段階では、自分以外の力を使わせてもらうようにするのである。

人間一人の力や能力などは、限られている。だから、もっと大きい力をお借りするのである。例えば、天の気、天地の呼吸、などである。例えば、天地の呼吸で、天の気に合わせて相手に技をかけると、相手は自ら天に向かったり、地に落ちるようになるのである。宇宙の力、天地の力を身につければ超人的な力が出るはずである。

第六段階:技の練磨
合気道は宇宙の法則に則った技を見つけ、身につけていって、上達するわけだが、この「技」が難しい。初心者は、この技を技の形と間違える。開祖は、円の動きの巡り合わせが技である、とだけいわれ、これが技だ、とはいわれなかった。技は、開祖の演武の動きの中にあったはずだが、どれが技なのか、我々にはわからない。

だが、技を練磨していくのが合気道であるから、技を練磨する必要がある。第五段階までの稽古をしっかりやれば、次の技の練磨に入れるのではないか、と期待しているところである。しかし、さらに上の段階もあるのだろう。