【第400回】 出し切る

合気道は技を練磨しながら精進、上達していく武道である。精進や上達には、目標がなければならない。目標があるから、その目標に少しでも近づくべく、上達しようと努めるわけである。

100メートル競走の目標は100メートル先にあるし、マラソンの目標は42.195km先にある。この目標に到達するのは、そう難しい事ではない。後は時間を短縮することだけが目標となる。しかし、合気道の技の練磨の目標に達するのは、容易ではない。

まず、その目標が何か、が明瞭ではない。従って、その目標点と方向が見えない。次に、その目標が分っても、どのようにすればそこに近づけるかがわからない。例えば、合気道の技の練磨の目標は、「宇宙との一体化」ということであるが、どのような稽古をすればよいかが難しいのである。

稽古の目標が分かり、そして、その方法がわかるためには、一生懸命に稽古をやることであると考える。それが、大前提である。しかしながら、これは容易ではないはずだ。

一生懸命にやるということは、言葉を変えると、「出し切る」「出し惜しみしない」「精一杯やる」「精魂を傾ける」ということである。これは他人や相手に対してではなく、自分自身に対するものであり、つまりは自分との戦いである。

他人や相手と戦い、それに勝るのは、そう難しいことではない。勝つための策略、謀略など使えばよいだろうし、負けそうな相手とはやらなければよい。しかしながら、自分に勝つことは、容易ではない。策略や謀略は通用しないから、地道に上達していくしかない。

地道に上達するためには、自分のすべてを使い、自分に勝つため、それまでの自分を超えるために、自分のあるだけを「出し切って」稽古していくことだろう。行くところまでいくと、その先に進めるわけである。出し切って「空」になるから、新しいものが入ってくるのである。

他人や相手を意識するあまり、これは隠して置こうとか、相手には見せないようにしようとか、出し切らないでしまっておいたりすれば、それが詰まってしまい、新しいものは入ってこなくなる。すると、上達はないことになるだろう。

開祖は、合気道は日々変わらなければならない、といわれている。これは、このような事を示唆されているのではないかと思う。

身につけた事(宇宙の法則、呼吸力)を技で使い、出し切り、そして新しいモノを入れていく。これが、合気道での上達ということになるのではないだろうか。