【第391回】 逆側の手が大事

合気道の技は手でかけるが、この手の使い方は容易ではない。宇宙の法則に従った技を出していくわけだから、そのためには、手もその法則に則った使い方をしなければならないからである。

初心者などは、持たれた手をむやみに振り回したり、相手を倒そう・投げようとするので、用の手を陰陽ではなく、陽陽につかってしまう。

相手に接し、あるいは相手に技をかけるべく力を加えている側の手が用の手であるから、用の手は陽である。次に、用の手を右から左、そしてまた右、つまり陽→陰→陽と変わらなければならない、ということになる。

手を陽陽に使ったり、用の手を初めに動かすのは、間違いである。なぜなら、これは法則違反であるからだ。例えば、法則には、

  1. 手も足も左右交互に陰陽で使わなければならない。動きが止まってしまう。
  2. 相手との接点を初めに動かすのは駄目。相手の力とぶつかる。
  3. 体の末端である手から動かすのは駄目。大きな力が出せない。
  4. 手を陽陽で使うと、相手を弾いてしまい、相手と結んだり、一体となれない。
  5. 手が陰であっても働かないと、体の半分しか使われない事になり、大きい働きができない
手を出したり、使ったりするのは、そう単純なことではないのである。手を出すということにも多くの体の部位が関わっていて、手だけがヒョイと出るわけではない。ましてや、武道で通用する手を出すには、どのように出すか、一度考えてみるのもよいだろう。

片手取りで手を出すとき、出す手は前で陽である。この後も陽の手だけで動くと、この手をつかむ相手への力の調節は難しい。大体は強すぎるか、弱すぎることになる。では、どうすればよいかというと、その陽の手と逆側の手を遊ばせておかないで、使うことである。

つまり、陽と反対側にある後ろの陰の手を使うのである。陰の手と、肩と腰腹の開きによって、陽の手に陰側の腰腹の力が伝わって、相手と結ぶことになる。

手は左右一対で、一本として、陰陽に使わなければならない。そのためには、手先と腰腹をつながるようにしなければならないし、肩を貫かなければならない。それができなければ、手は折れ曲がってしまうし、腰腹からの力が肩で止まってしまい、腰腹の力が使えないのである。

手を陰陽に使うには、呼吸に合わせて使うことである。つまり、吐いて、吸って、吐く、の生産びの息づかいである。

また、左右の手を一本にして、シーソーのように使うとよいだろう。用の手と同じ側の足に力と重心がくると、反対側の陰の側は上がってくる。そして、こちらが用になると沈み、反対側が陰となり上に上がる、ということである。技は、この上がりがあるから効くといえるだろうから、このシーソーは大事である。
この感覚がわかりやすいものに四股踏みがある。地の足の手が下がったところで他方の手が肩から上がっていき、一本の手として繋がっていく感覚になるはずである。

一般的にいって、陽とは働いている側、見える側、活発な側を指す。その反対に、陰は働いていない側、見えない側、陰気な側などをいうので、陰は敬遠されたり、軽視される傾向があるようだ。

しかし、合気道では、少なくとも陰陽共に大事であるし、陰陽一体でなければいけないといわれているくらいだから、陰も陽のように大事である。しかも武道である合気道としては、まだ見えない、働く直前の、静かに待機している陰が重要であるように思う。

待機している陰の手が重要な場合といえば、例えば、入身投げの陰の手がある。この待機している手は、陰から陽に変わるとき、相手の横腹を打つ・砕く働きをするものである。また、正面打ち一教の陰の手も、相手を崩す役割を担っている。つまり、武道的にいうと、最初の陽の手で導き、次の陰の手でとどめをさす、ということになる。

しかし、これは今回の趣旨からはちょっと外れてしまうので、本題にもどることにする。

片手取呼吸法(右半身)で、用の陽側と反対側の手の使い方を示してみよう。 どうやら、吸収力とか、何が出てくるか解らない不気味さ、相手と結び、一体化する力などが、陰にはあるようである。