【第380回】 結ぶために

相対稽古で相手に技をかけるときには、初めにやるべきことをやらないと、その技が効かないものである。何事も「初めが肝心」だが、合気道でも同じである。

技をかける際の始まりは、相手と触れるときである。相手に手を取らせるにせよ、胸や肩を取らせるにせよ、あるいは手刀で打たせるにせよ、相手に触れた瞬間に相手と結ばなければならない。触れた瞬間の結びがなければ、相手は活きているから、まだ思うままに自由に動き、そして再攻撃できることになる。

二人が思い思いに動くのでは、技をかけて相手を倒そうとしても、相手はその希望を排除することができる。それでも倒そうとすると、力でねじふせることになる。相手が従えばよいが、そうでなければ争いになるだろう。

結ぶということは、二人を一人にすることである。つまり、1+1=1である。相手に触れた瞬間に相手と結ぶのであるが、これが容易ではないようだ。

何でもできてしまえばこんなものかと思うもので、他人ができないのが不思議に思われるものだが、「結び」も同じである。結ぶ方法を手取り足取り説明しても、中々できないものである。

できない原因としては、そのための体ができていないことにあるようである。例えば、片手取りで取らせた手で、相手と結ぶためには、取らせた自分の腕の重さを感じるようでなければならない。そのためには、まず腕が肩からストンと地に向かって落ちるようでなければならない。

しかし、これがけっこう難しいのである。肩周辺の筋肉が邪魔をして、肩が貫けなかったり、力んだり、余分な力があったりするために、持たせた手で相手を弾いてしまい、結べないのである。

自分の腕の重さを感じるようになるためには、先人がやってきたように、力一杯、稽古をやるのもよいと思うが、私の場合は、二つのことで会得できたように思われる。

一つは、肩を貫くことである。そのためには、手や手刀を縦・横と、息に合わせて、十字に使った素振りの稽古をするのがよい。

もう一つは、風呂やプールで腕を浮かせる稽古である。初めは多少力を加えて浮かせるようにしたが、そのうちに自然と浮くようになった。腕が浮くと、腕の重さを実感できるようになって、相手にくっつくようになったのである。

結ぶためには、腕の重さが大事であるが、脚の重さも大事である。脚は、地と結ぶからである。脚が初心者の手のようにつっぱったり、力んだりしてしまえば、地が弾いてしまい、地と結ぶことはできない。脚も手と同様に重さを感じるようにならなければならないだろう。

腕の重さと脚の重さは大事であるが、もうひとつ大事な重さがある。それは、体の重さである。自分の重さ(体重)を感じ、それを地に落とすのである。地はその重さを受け取り、その抗力を返してくれる。それを、体の要である腰腹で受け取るのである。

十分な重さを地に落とすことができれば、その見返りは大きくなる。だから、体の重さが十分に地に落ちるようにしなければならない。そのためには、突っ張ったり、力んだり、重心が分散しないように、注意しなければならない。

腕の重さは相手と結ぶために、脚の重さは地と結ぶために、そして、体の重さは地球との対話のために、大事であるということになるだろう。