【第37回】 自分の身体はラボラトリー

合気道の最終目的は技を覚えることではないといわれるが、その最終目的に向かう為には、正しく技を習得していかなければならない。恐らく技が出来る程度にしか、合気道を理解することはできないといえるだろう。

合気道は宇宙万世一系に繋がっているわけであるから、それに繋がるように稽古をしなければならない。合気道には試合も無いし、争うことを良しとしないので、自分の思うままにほぼ自由に稽古を進めることができるが、人はどうしても自分の得意で、やりやすいようにやってしまう傾向がある。このやり方は往々にして、宇宙万世一系の道には逆行している。この逆行に進まないためには繊細な体感覚が必要である。

技を掛けるにあたって、相手とぶつかりながらぶつからない状態、結んだ感覚、技をかけるための重心の移動、手の螺旋の動き、手足の陰陽の変換、相手を最後まで結んだまま納めることなどは、人から教えてもらえるものではない。これは自分自身の身体で感じて、試し、判断し、試行錯誤して、精度を高めるほかにない。従って、自分の身体を健康に保ち、柔軟で繊細で最高の状態にしておかなければならない。膝や腰や肩など痛めているようでは、繊細な稽古はできないだろう。

稽古でいつも上手くいくとは限らないものだ。というよりも、ほとんどすべての場合に何か問題があるはずである。稽古が上達するかどうかは、まず、その問題を自覚し、真摯に受け入れることである。そして、その問題をそのまま放置せずに、それを解決するために考えることである。

稽古の最中に問題を見つけても、その問題解決を即見つけることは難しいだろうから、稽古が終わって自主稽古でそのソリューションを試すか、それでも駄目ならこの次の稽古までに考えてみることである。そしてそれが上手くいくまで、数日でも数ヶ月、数年かかっても、自分が納得できるまで試すのである。

考えるのは一人でやるわけだから、こうやれば上手くいくはずだとイメージして、喜び勇んで道場で相手に試してみても、はじめのうちは大体上手くいかないのがふつうだ。それでも、長年続けていると、自分が描いたイメージ通りにだんだん上手くいくようになってくるものである。

といっても、上手くいくかどうかは、自分の身体を如何に使いこなせるかにかかっている。自分の考えたことを自分の身体で実験するわけだから、自分の身体をラボラトリー(研究室)として使うことになる。まわりに惑わされず、自分の身体感を信じて、自分に立ち塞がる問題を、自分の身体の実験室で一つ一つ解決していきたいものである。