【第351回】 基本技をおろそかにしない

合気道の一般的な稽古は、通常、二人で組んで、交互に捕りと受けを稽古をする相対稽古である。この相対稽古で技をかけ、受けを取りながら、技を練磨し、上達していくのである。

これは非常に優れた、すばらしい稽古法だと、常々感服している。しかし、合気道の教えにもあるように、よい面があれば、その裏には影の面も隠れている。その影の面とは、捕りがどんな技をかけても、受けは倒れる順番であるので、よほどのことがなければ倒れてくれることである。つまり、捕りがよい技をつかったか、まずい技をつかったか、また、どれだけよい技をつかったかが、受けには反映し難いことである。もちろん、大先生や相川師範などの技は、受けに正確に反映されていたことは間違いない。

捕りの技が受けに反映されないと、捕りは受けを投げ飛ばしたり、抑え込めればよいと、自己本位の稽古になってしまう。技が身に着いていなければ、受けを制するために、腕力、体力、勢いなどの魄にたよることになる。そして、次第に合気の道を外れていくことになる。稽古を続ければ続けるほど、道から離れていくのである。

おかしいと思ったら、常に原点にもどることである。初心に立ち帰るのである。 合気道を始めたときには、基本技を正確に覚えようと稽古したはずである。つまり、一教から三教、四教。四方投げ、入身投げ等などである。これらの基本技をもう一度、初心に帰って稽古するのである。それまでは相手をひょいひょい投げていただろうから、基本技など問題なくできると思っているだろうが、それは思い込みであることがわかるだろう。

相手にしっかり持たせたり、打たせてみると、よくわかるものだ。しっかり持たせた手は容易には動かないだろうし、技など簡単にはかけられないものだ。相手に思い切り打たれると、足は動かないし、体も捌けず、頭や肩を打たれることになるだろう。

先ずは、できないこと、まだまだ未熟であること、を認識することである。そこで初めて、初心の稽古ができるようになる。この境地になれば、基本技をやらなければならないと思うようになるはずである。名人のやるような技や派手な技をやっているうちは、初心に帰っていないことになる。

初心に帰ってやる基本技の稽古は、稽古を始めたときの基本技の稽古とは違う。今度は、法則を見つけ、その法則に則った技をつかうようにしなければならない。手足を陰陽合致し、左右規則的に遣うとか、十字につかう等などである。

法則を見つけるのは容易ではない。誰も教えてくれないだろうから、自分で見つけていかなければならない。そのためには、基本技を一生懸命に、繰り返し繰り返し稽古して、その中から見つけ、そして試し、試行錯誤しながら身につけていかなければならないのである。見つけることができるかどうか、身に着くかどうかは、どれだけ基本技をしっかりやるかにかかっているだろう。

合気道の技は、円の動きの巡り合わせから出てくるといわれるが、それは基本技である四方投げをしっかりやれば、わかりやすいだろう。

また、一教、二教、三教、四教の技(正確には技の形)の武道としての意味と稽古をする意味も、わかってくるはずである。一教から四教までの技としてのつながりと関係も、分かってくる。一教がうまくできなければ、二教も三教も四教も、その程度にしかできないこともわかってくるだろう。そこで、一教の重要性が再認識されるはずだ。

一教から四教の固め技は、合気の体をつくるのにふさわしくできていると思う。手の関節のカスを取り、筋肉をつけ、そこを柔軟にしてくれるのである。だから、そのつもりで意識して、多少の痛さなどは我慢して受けをとらなければならない。極限まで抑えたり、抑えさせなければならない。そうすれば、一教や二教、三教の受けで、極限まで伸ばしてもらうことが、非常に気持ちよくなるはずだ。

それまでは、一教の表と二教の表の違いなどは気にせず、区別もできなかったことだろう。基本にもどって、しっかり稽古をしていくと、その違いもわかってくるはずだ。

一教は腕抑えといわれていた技であり、腕を抑えて相手を決めなければならないから、腕は太くて頑丈なのでなかなか難しい。二教は小手回しといわれるから、小手を攻めて崩す技のはずである。それは裏を考えればいい。いづれにしても一教と二教の名前が違うのだから、表の技も違うはずである。

その他にも、基本技をしっかりやっていくと、いろいろなことが分かってくるし、身についてくるだろう。息遣いもそうであるし、引力もついてくるものだ。理合の技ができて、息遣いが身につき、相手とくっついて離れにくくなると、大きな力を使っても相手と離れにくくなるので、真の呼吸力養成の稽古に入ることができるようになる。

つまり、ここから本格的な稽古に入っていけるのだと思う。壁にぶつかったら初心に帰って、基本技にもどればよいだろう。基本技をおろそかにしては、先へ進めないと思う。