【第324回】 不得意の穴を埋めていく

人間は誰もが五体でできていて、基本的には同じであるが、その五体の使い方によって、異なる結果が出てくる。

合気道の稽古においても、同じような五体を使い、同じように形稽古をしているのだが、うまい下手の差ができてくるものだ。うまい人というのは、おそらく長い間稽古してきたか、より真剣で一生懸命に稽古しているか、運動神経や体力が優れている人であろう。

うまくなるためには、結局は稽古を一生懸命に、そして長く続けてやることである。合気道は、5年や10年で目標に到達できるようなものではない。

初心者のころは、誰でも得意技を主体にして、形稽古をするものだ。相対稽古の時間の技が自分の得意なものだと、うれしくて張り切ってやるし、自主稽古でも得意技主体でやるだろう。

初心者は、得意技のレベルアップによって、他の技もそのレベルにしようとするだろう。従って、初心者の時期は、得意技をさらに稽古し、少しでもレベルアップすることが、上達への早道となるだろう。

もちろん、不得意技もうまくできるように、稽古しなければならない。だが、その技ができないのには理由があるわけで、初心者が不得意技をなくすのは難しいものだ。

しかし、上級者となると、不得意技をなくすように、稽古していかなければならない。特に、基本技である一教から五教、四方投げ、入身投げ、小手返しは、むらのないようにしなければならない。なぜなら、合気道は武道である。敵は本来弱いところ、不得意なところを攻めてくるものである。従って、不得意な穴を埋めていくのが、武道的な稽古ということになろう。上級者で上手な者とは、不得意技が無いか、少ないということにもなる。

もちろん、上級者も得意技をもっているわけだが、その得意技をさらにレベルアップしていかなければならない。得意技がさらにレベルアップすると、他の技とのギャップはさらに深まるので、その穴を埋めなければなくなる。穴を埋めていけば、全体的な技のレベルアップにつながり、うまくなった、上達したということになるわけである。

だが、穴を埋めるのは容易ではないはずだ。その穴は、初心者の頃のように、稽古を繰り返してやれば埋められるというものではないからである。その穴は、宇宙の法則に則った技つかいでしか埋められないのである。例えば、十字、円のめぐり合わせ、陰陽、裏表、引力などなどである。

穴は無数にあるが、有難いことに、一つの穴を埋めることができると、それと関連する穴が同時に埋められるのである。例えば、一教の最後のところがうまくいかないで、穴が空いていたのが、足を右左交互に規則的につかうという法則を身につけてその一教の穴を埋めることができれば、入身投げなど他の技もうまくいくようになり、他の技の穴も埋まるのである。

また、片手取り呼吸法で、相手に強い力で手を抑えられると、技をかけることも、動かすことさえもできないものだ。だが、十字を使うことによって、相手の力を殺ぎ、相手をくっつけてしまうことができれば、片手取り四方投げなどの他の技でもつかえるようになる。すると、その穴も埋められることになる。

不得意の穴は、技の練磨によって埋めていく。技の練磨とは、技の法則性を見つけ、身につけていくことだろう。その結果、不得意の穴が埋まっていくことになる。これが、合気道は技の練磨によって精進する、ということでもある。