【第310回】 速度調整

道場の相対稽古で技をかける場合、技をうまくかけるには、いろいろな事をしなければならない。若くて元気な稽古をする場合には、主な事は次の3つであろう。

  1. 力(体力と気力)
  2. リズム
  3. スピード
初めのうちは体をつくり、体の節々のカスをとりながら、技の形を覚えていく段階なので、まだ、技はつかえないから、魄の力に頼るしかないだろう。この段階では、稽古の後で足腰が立たず、息もハーハーゼーゼーするくらい、心身を精一杯つかって、力とリズムとスピードの稽古をするのがよい。

技を生み出す技要素を身につける段階や、技が身についてくると、これが変わってくる。腕力は鍛え続けるが、腕力を使わず、腰腹の力、体重、体の遠心力などからの呼吸力をつかえるようにする。相手とくっつく引力がついてくると、相手と一体化し、相手を自分の分身として、自由にすることができるようになる。

くっついた相手は自由にできるから、急ぐ必要はない。ただ、こちらにも稽古にならないと、稽古の意味がないので、自分の稽古になるように稽古しなければならない。 そこで、相手の限界と思えるレベルの紙一重上でやるのである。相手がついてこられると思われる限界での力と速度で、技をつかうようにする。

しかし、このような稽古をしていると、体がうずうずして欲求不満になるかもしれない。だが、相手構わず速く動けば相手はついてこられないだろうし、もしかすると怪我をさせてしまうことになる。

では、この欲求不満を解決する方法はないのかというと、解決方法はある。これも合気道の有難いところである。

一つは、超スローに動くことである。これは意外と難しいものである。超スローに動くと、相手とのつながりが切れがちになるからである。ふつうの速度では、それに気付かないものだ。超スローでは、まず息が切れるだろう。息が途切れれば、体の動きが止まる。息づかいも難しい。

相手と一体化したら、最後まで切らずに技を収められるよう、極限の超スローで稽古するのである。

合気道は陰陽の教えでもあるが、超スローでやればやるほど、超速でもできるようになるものである。だから、超速で技をつかいたければ、超スローで稽古すればよい。受けが元気で、体ができていれば、超速で試してみればよい。

二つ目は、心(気持ち、気力)で技をつかっていくことである。心であるから、速度は光よりも速いかもしれない。力をそのまま使えば、相手は怪我をしてしまうから、手加減しなければならない。技をかける手と腰腹が結んでいれば、その速度調整は難しくないはずだ。気持ちだけ出して、力を抜くこともできる。

だが、ここでも息の使い方が大事である。心と体をつなげることができるのは息だからである。息によっても、速度の調整をしなければならない。

超スローで動き、電光石火の心と息遣いができるようになれば、技をつかう動きの速さは自由自在になるはずである。あとは、超スローと超スピードの両方の限界を引き上げていくことであろう。