【第301回】 押さない、弾かない

合気道は相対で、技の練磨をする。技を掛ける取りと受けを交互に公平に行うすばらしい稽古法であるが、どうしても相手を投げることに意識が向いてしまい、肝心なことを忘れがちになるのが盲点と考える。

相手を投げたり抑えることを目的とする動きをすると、相手は敏感にそれを感じ取る。それも、気持のよい感じ方ではない。なぜなら、その力が押す力、弾く力で、いうなれば争う力であるからである。

なぜ押したり引いたりすると、受けを取っている相手はよい気持ではなくなるのかというと、その理由は明白である。合気道は引力の養成であり、相手と一体化するわけだから、相手を押したり弾いたりしてしまうと、一体化せずに二体になってしまう。二体になれば、相手は自分の分身とならないので、相手を制することはできず、場合によっては逆らってくるので、果ては争いになり、合気道ではなくなるからである。

相手に手で技をかける際に、手で相手を押したり弾いたりしてしまうのは、相手と接触している自分の手をむやみに動かすからである。むやみに動かす理由としては、

等などのことである。

相手を押したり、弾かないようになるためには、上記のことをカバーするようにすればよいわけだが、もう一つ重要なことがある。それは、形稽古から技の稽古に変えることである。形稽古をやっているかぎり、どうしても力(腕力)に頼らざるをえないので、押したり弾いたりしてしまうのである。

技の稽古に入れば、相手は敵ではなくなり、自分と一体化し、自分の分身(身体の一部)となる。だから、相手を押したり弾いたりする必要などなくなるのである。