【第295回】 呼吸力の鍛錬

合気道は引力の養成ともいわれる。引力とは引きつける力であり、合気道的にいえばくっつく力であり、結びつく力、一体化する力である。この力を、合気道では「呼吸力」というのである。

従って、合気道では呼吸力が大事であるから、呼吸力ということがよくいわれる。呼吸力の特別鍛錬法として、「呼吸法」という稽古法があり、稽古の初めと終わりにはこの稽古をするのが一般的になっている。

呼吸力というのは、通常につかわれている腕力のような力とは違うものである。腕力は体力や筋力に依存する割合が強いが、呼吸力は技の上で使わなければ出ないものであると考える。例えば、縦横と十字につかう、円のめぐり合わせでつかう、螺旋でつかう、接点を動かさずに対極を中心に動かす、陰陽で動く、天と地の息に合わせて動く、等などの中で出る力である。

これらの技の中から出て、相手とくっつき、相手と一体化してしまう力が呼吸力なのである。技に則らないで力を使えば、相手を弾き飛ばしたり、相手に反発されたり、相手から離されたりして、相手を制することができず、相手から反撃されたり、悪戯されてしまうことになるものだ。

従って、呼吸力をつけるためには、技をある程度身につけなければならないことになる。技を身につけ、その技の中で、力を出しながら、呼吸力を養成していくのである。技の中でなら、力を精一杯に出せば出すほど、呼吸力がついてくる。

呼吸力をつける最もよい稽古法が、「呼吸法」である。片手取り、両手取り、諸手取り、坐技などいろいろある。これでも足りなければ、二人掛け、三人掛けの諸手取り、諸手・首絞め・胴締めなどを取り交ぜた三人掛け、四人掛け、五人掛けなどもある。呼吸法の稽古で呼吸力をつけていくのも、終わりがないようだ。

しかし、これらの「呼吸法」も、技の中で稽古しなければ呼吸力はつかない。技をつかわずに稽古をしても、他の形稽古と同じように、ただの腕力養成、体力づくりになってしまうことになる。

「呼吸法」とは、「呼吸力鍛錬法」のはずだから、呼吸力がつくようにやらなければ意味がない。まず、「呼吸法」は呼吸力をつけることが目的で、二教や四方投げのように相手を投げたり抑えるものではないことを知らなければならない。「呼吸法」で、投げたり、抑えることを目標にしていると、呼吸力はつかない。呼吸法をやる時に相手が倒れれば、気持はよいだろうが、倒すことを目的にしてしまうと、肝心の呼吸力がつかない。それよりも、相手が倒れなくてもよいから、自分の呼吸力がつくように心がけた方がよい。

「呼吸法」での理合いに則って力いっぱい稽古していけば、呼吸力はついてくるが、もちろん通常の形の稽古でも呼吸力はつくし、つけていかなければならない。一教でも四方投げでも技に則ってやれば、力を目いっぱい入れてやったとしても、相手との結びを切らずに相手を自由に操作することができるはずである。

しかし、相対稽古の相手にもいろいろあって、小柄で体重の軽い人ばかりではなく、大柄で力があり体重の重い人もいる。それを片手取りの場合などは、片手で誘導しながら技を掛けなければならないわけだが、初めからできる事ではないはずである。徐々に力をつけていくしかないのである。

呼吸力とはどういう力なのか、どうすればその呼吸力がつくのかが、最も分かり易い鍛錬法は呼吸法であるから、諸手取りや坐技の呼吸法をしっかりやることである。そして、呼吸力とはどういうものなのか分かってきたら、一教や四方投げなどの技(形)で、さらに呼吸力をつけていくのがよい。以上のようなことを、呼吸力の鍛錬と考える。