【第275回】 合気道とオーケストラ

合気道は技の練磨が大事であるが、そのためには体の遣い方が重要になる。合気道の技は手で掛けるのが原則であるが、手だけを動かしても技にはならない。その手がうまく働くためには、全身の部位がその各々の務めを果たし、そしてその各々の働きが協調していなければならない。それは、オーケストラに似ていると思う。

オーケストラは管弦楽団とも呼ばれ、大規模なものには交響楽団がある。交響楽団になると指揮者と楽団員(演奏家)など100名になるものもある。各演奏家は自分のパートを最善を尽くして演奏するだけでなく、他のパートとの調和を図らなければならない。

それをさらに調整するのは、指揮者である。君はもっと強くとか弱くとか、指示を与えるのである。

合気道で技を掛ける時には、手のほかに脚、胴体もつかうが、これはオーケストラでいえば、弦楽器のグループ、管楽器のグループ、打楽器のグループなどということになろう。この弦楽器はさらにバイオリン、ビオラ、コントラバスなど、管楽器もフルート、トランペット、ホルンなど、打楽器はテンパニー、ドラムに分かれ、それも第一、第二など複数の人数になる。

人間の体でも、手といっても、手の平、小手、上腕、肩甲骨が含まれる。脚もくるぶしから下の足、足首、脛(スネ)、膝、腿(タイ)、胴体も背、胸、腹、腰と分けることができる。これらは弦楽器のバイオリン、ビオラ、コントラバス、管楽器のフルート、トランペット、ホルン、打楽器のテンパニー、ドラムなどに相当すると言えるだろう。

先ずは、この手と脚と胴体のグループが各々うまく働くようにしなければならない。そして、他のグループとよい連携プレイができるように協調すれば、技はうまく掛かることになるだろう。

そのためには、手なら手の平、小手、上腕、肩甲がうまく働いてくれなければならないから、それらを鍛えなければならない。

楽団のグループのひとつ、あるいはグループ内の一人でも、失敗したり、まずかったりすると、演奏はうまくいかないだろう。

同じように、技を掛ける場合にも、手、脚、胴体がうまく遣えなかったり、動かなければ、うまい技は掛けられないだろう。手の中でも、手の平の遣い方ひとつでもうまく遣えなければ、よい技はできないことになる。というより、手の平、指一本がうまく動かなければ、よい技にはならないはずである。

技がうまく遣えるようにするためには、体の各部位が最高の働きができるように鍛錬することである。また、各部位が協調するように、「心」の指揮者がしっかり指揮することが大事ではないだろうか。