【第252回】 ゆっくり気を入れて

合気道は技の練磨を通して上達していくので、技を大事に遣わなければならない。技というのは多くの(無限の)技要素、開祖が言われる「技を生み出す仕組みの要素」の集合体であるから、技の形(軌跡)だけでなく、技要素もより正確に遣っていかなければならない。滅茶苦茶に技の形をなぞっているだけでは、技の上達はないはずである。

技の形と技要素をより正確に体現するためには、まず、気を入れて動くことが大事である。気を入れるとは、気持をいれること、精神を集中すること、心を遣うことなどと言えるだろう。例えば、手を掴ませたならば、その自分の手に気を入れ、相手と結び、気持で自分の体を導き、相手に技をかけるのである。心が体を導く魂主導である。気の入っていない技は、力もないし、相手と結ぶこともできず、技にならない。いわゆる気の抜けた稽古か、手を振り回す動きになってしまうだろう。

気を入れた稽古をするには、はじめのうちはゆっくり動くのがよい。気が入るのが分かるだけでなく、自分の力の流れや相手の力を感じやすくなるし、潜在的な自分の大きな力が遣えるようになる。それは深層筋からの力であろう。力を込めたり、力んでしまうと、表層筋が働いてしまい、深層筋の働きを邪魔してしまう。これでは、相手と結んだり、相手に共鳴するような力が出せず、技がかかりにくいことになる。

気を入れてゆっくり動けば、深層筋を遣うと同時に、深層筋自体を柔らかく、そして強く、太く鍛えることも出来るようになる。この深層筋は年を取っても鍛えることができるし、なかなか衰えないと言われている。年を取ってきたらこの深層筋を鍛えていくようにしなければならないだろう。

また、気を入れてゆっくり動くと、自分の全体像が見えて来るし、自分の体からの声を感じられる。すると、相手の身体からの声も聞こえてくる。

気を入れてゆっくり動くのは、はじめ容易ではないだろう。ゆっくり動くと気が抜けてしまったり、気を入れることで体がこわばり動けなくなってしまうからである。

気を入れてゆっくり動くためのポイントは、呼吸、息遣いである。正しい息遣いに合わせて、気(持ち)を入れてゆっくり動けば動けるはずである。正しい息遣いとは、体の動きと合って、無駄がなく、途切れない息遣いである。これを開祖は「いくむすび」の息遣いとも言われている。そのためには、強靱な心臓と肺、大容量で伸縮自在の腹をつくっておかなければならない。若い内、初心者の内に、大いに受身をとっておくのがよいだろう。

稽古は、ただやればよいというものでもない。上達するように、道に則った、法則に従った稽古をしなければならないはずである。自分の動きが法則に則ったものかどうか、常に考えていなければならないが、そのためにもゆっくりと気を入れて、呼吸に合わせて技を遣っていくのがよいだろう。「急いては事を仕損じる」である。