【第198回】 理論と実践

合気道は技の練磨を通して精進していくわけだが、技を覚えるのが最終目的ではないようである。もちろん、多くの技をマスターすることも大事ではある。なぜなら、技が違えば異なる何かを得ることができるはずだから。

技の鍛錬を通して何を求めようとしているかは、人によって違うだろう。人のことをとやかくいうこともないが、後で自分が後悔しないような鍛錬をやらなければならないだろう。

とはいえ、誰でも技は上手くなりたいと思っているだろう。上手か下手かなど、いろいろな判断基準があるだろうが、その一つに、技が上手くかかるための「技要因」をどれだけ身につけているかが挙げられるだろう。技の練磨とは「技要因」を見つけて、それを身につけるということも重要要素であるということも出来るのではないか。

ある技で「技要因」を見つけた時には、それを相手に掛けてみたり、他の技で遣ってみたりして、上手く掛かればその「技要因」は本物であるだろう。本物はどの技でも誰にでも遣えるはずである。その上、自分の不得意の技や苦手の相手でも、その「技要因」を遣って上手くかかれば、本物といえるであろう。

本物の「技要因」は、どの技にも入っているはずである。しかし、技によってその優位性は異なるのではないだろうか。つまり、遣いやすい技、遣い難い技があるということである。

特に、最重要と思われる「技要因」で構成されているのが、基本技といわれる技であろう。例えば、「入身・転換」技要因は入り身投げ、「十字」に手や体を遣うのは四方投げ、「ぶつかってぶつからない」は一教等、それぞれにその技要因の比重が大きいということである。

「技要因」である「入身・転換」は「正面打入身投げ」で覚えるのが一番覚えやすいだろう。「正面打入身投げ」が出来なければ、他の技で「入身・転換」技要因を遣うのはもっと難しいはずである。「入身・転換」が出来るようにするためには、「正面打入身投げ」を続ける他に、基本準備運動で入身転換法を一人稽古でやって体と形を作り、相手に試してみれば分かりやすいだろう。それが出来た程度に応じて、「正面打入身投げ」が出来てくるはずである。

「正面打入身投げ」がめでたく出来るようになったと思えば、他の技で「入身・転換」を試してみるとよい。「入身・転換」を意識して、その技を掛けてみるのである。例えば、「天地投げ」である。

「天地投げ」で「入身・転換」を「技要因」として意識してやる人は、あまりいないようだが、そのために相手と正面衝突していまい、上手くいかないのである。「天地投げ」で「入身・転換」技要因が遣えるようになれば、この技は上手くいくようになるはずだ。上手く出来れば、「入身・転換」という「技要因」は本物であるということになろうし、それが身についたことにもなろう。

そうなったら「入身・転換」の「技要因」をすべての技で遣うように心掛ければよい。一教でも小手返し、回転投げでも、「入身・転換」は大事な「技要因」ということが改めてわかるだろうし、自分の技が依然と比べて相当変わってくるはずである。これを上達したというのだろう。

理を見つけて実践する、そして実践して理論化し、さらに応用する。これも技の鍛錬に重要なことではないだろうか。