【第112回】 決して満足しない

人間の上昇志向には、限りがないように思える。何故なら、歴史上には多くの天才や偉人、名人、達人などが、人も羨むような素晴らしい作品や理論や技術を残してくれているが、誰一人としてこれで充分満足だと云った人はいないと思う。そのときは最高のものができたと思ったかもしれないが、まだまだいいものが出来るだろうし、まだまだこれからだ、と思ったはずである。合気道の植芝盛平翁も、晩年になっても常々「まだまだ修行じゃ」と我々門弟に言われていたものだ。

なぜ人間の上昇志向は限りがないのか。一つのヒントは、宇宙生成の姿である。春日大社の宮司から長老になられた葉室頼昭氏は著書「神道<はだ>で知る」(春秋社)で、「宇宙は現在も、神さまの考えておられる目的に向かって常に全体として流れておりますので、宇宙で起きているすべてのことは過程であり、宇宙に静止した、いわゆる結果というものはないのです。」「宇宙は常に動いていて静止していない」と書いている。つまり、150億年前にあったビッグバンの大爆発以前の大虚空から、宇宙は動き続けているのだから、その宇宙の一部である人間も動き続けることになり、静止することができないものと考える。

合気道の修行も、常に続けなければならない。静止してはいけない。静止するということは、稽古をやめてしまうことだけではない。出来上がってしまうことも静止である。出来上がってしまうということは、自己満足してしまうことである。人間であるから、一時満足することは許され、誤りである。自分が上手いとか強いなどと思うのは、下手なものや弱いものと自分を比べているからに過ぎない。

満足してしまったらそこが頂点。あとは下るのみである。宇宙とともに静止することなく、動いていたいものである。

参考文献   「神道<はだ>で知る」 葉室頼昭 (春秋社)