【第657回】 末端を鍛える

一般的にもそうだが、武道でも体の中心である腰腹が重要である。腰腹がしっかりしていれば、体がどっしり安定し、力も出るし、手足に力が行き、手足を上手くつかいやすいからである。また、息も下腹が中心になるし、技をつかう際も、腰腹を起点に足と手をつかうからである。
従って、腰腹の稽古、腰腹の息づかいや腰腹の十字づかいなどを重視する稽古をすることになる。

腰腹は確かに大事だが、実際に技を極めるのは手であり、足であるから、手足も鍛えなければならない事になる。手先や足先が十分に鍛えられていなければ技が極まらないのである。例えば、交差取り二教などその典型であるが、すべての技で、手先がしっかりしていなければ効かないはずである。

鍛えられた手首とは、柔軟で頑強という二面性を持った手首である。また、柔軟で頑強な手首とは、頑強な手首関節と頑強で柔軟な手先ということになる。頑強とは鋭利で折れそうにない刀のような手刀であることだ。

手首を鍛える典型的なものには、二教裏の受けで鍛える事であろう。しかし、力を抜いたり、また、無暗に頑張って受けても上手く鍛えられないし、手首を壊すことになる。手首を本当に鍛えたければ、息に合わせて鍛える事である。イクムスビの息づかいに合わせるわけだが、クーで息を引きながら耐えるのである。初心者はここで息を吐きながら頑張るので、痛いし、筋肉も筋も関節の伸びないのである。息を引きながら、しかし気(気持ち)は引かず、気を出して手首を鍛えていくのである。そうすれば手首を鍛えると共に、腹も鍛えられるのである。

また、木剣や杖などの得物でも手首は鍛えられる。木剣は手首を上下方向に鍛え、杖は手首を回す鍛錬になる。手首がしっかりしてくると、木刀でも手刀でもピューと切り降ろす音がするようになる。
手首を鍛えるために、かっては鉄扇を持ち歩いていた先輩もかってはいたものだ。真似しようと思ったが、結構な値段がするので止めた。

手首と同様に、足の末端の足首も重要である。まずは十分歩いて鍛える事である。はじめの内は、足首を意識して歩いたり、階段を上り、そしてまた、道場での相対稽古で技を掛ける際、また、受けを取る際に、そこを鍛えるという意識で動くことである。

足は陰陽や十字の撞木でつかったり、踵から足先に体重を移動するなどするわけだが、その際この足首が重要になる。また、四股を踏む場合にふらつく大きな原因の一つが、この足首がしっかりしていない事にあるといっていいだろう。

体の末端にある手首と足首を鍛えてしっかりさせれば、技の効き目は大きく変わるはずである。手首と足首も鍛えよう。