【第656回】 合気道の三大病

大先生がご健在であった半世紀前の稽古は、今とは大分違っていた。初心者も高段者も一緒に稽古をしていたし、高段の先輩たちは、遠慮と云う言葉を知らないのではないかと思うほど、誰でも遠慮なく投げ、極めた。また、坐技が多く、初心者のわれわれは常に膝を痛め、膝から血をよく流していた。だから袴を履けば、楽になるだろうと、袴を履いた先輩たちを羨ましく思ったものである。

怪我もしたが、大した怪我ではない。二教などで手首を極められ、折れたりはしないが、力が入らない状態であったが、お互い見せあって楽しんでいた。右をやられ、右が治ると、今度は左をやられ、それが治るとまた右と二順ほどして、ようやくなんとか両手首は痛くなくなり、大分しっかりした手首になった。しかし、相手によっては、まだたまに痛められることもあったが、あまり気にならなくなかった。また、軽い怪我はしょっちゅうあったし、その痛みが生きている感じになったし、どこも痛くないと生きている実感がなかったことを覚えている。

合気道には余り逆がないので、肘や肩などを壊すことはあまりない。最近は座り技も少なくなってきているので、膝を擦りむいたり、痛めたりすることも少なくなったようだ。
しかし、合気道を長く続けてくると怪我をする人が増えてくるようだ。
三つの大きな怪我があると考える。【1】肩と【2】膝と【3】腰の怪我である。これは合気道の三大怪我といっていいだろう。その症状と原因とその解消法を簡単に書いてみる。

  1. の怪我である。<症状>は手が上がらない、腕が回らなくなる。<原因>は、肩を貫かないで、手や腕を上げて使う事である。
    <解決法>は、肩を貫けばいい。手を縦に上げ、そして肩(胸)を横に開き、そして手を更に上にあげる、と手を十字につかうのである。これで肩のひっかかりがなくなり、肩も手も自由に動くようになる。
  2. の怪我である。<症状>は、膝に痛みを感じ、屈めないし、正座も難しくなる。<原因>は、体の裏側を使っていることと、膝を前に出し過ぎてつかうことである。まず、体の表である、背中側を使わなければならない。技も表からの力でないと効かないものである。その好例は、二教裏である。次に、例えば、膝の屈伸をしたり、開脚での屈伸の際、膝が足先の方に出る事である。<解決法>は、腰を前に出さずにストンと下に落とせばいい。屈伸の際、膝頭を決して足指の方に出さないことである。
  3. の怪我である。<症状>は、腰が痛くなり、動けなくなる。<原因>は、本来は腹を用(よう)としてつかうべきなのに、腰を用としてつかってしまうからである。<解決法>は、腰は体(からだ)の要とし、そして腹の支点の体(たい)としてしっかり保ち、腹を用として使う事である。背筋運動などでこれを間違えている人が多いようで、大体は腰を痛めているようだ。
    腰は体の要と言われるように重要な箇所である。だから、腰を痛める事は最大級の怪我ということになり、ひどい場合は、稽古を休んだり、辞めざる得なくなることになる。

    また、膝を痛めると、次に腰の怪我につながると言ってもいいようだ。少なくとも、膝の怪我がひどくならないうちに、膝のつかい方を直し、腰の怪我、引いては早期引退を避けなければならないだろう。

    これらの怪我は、引退や大病を引き起こすわけだから、病気といってもいいと思っている。