【第642回】 両手を同時につかう

相変わらず正面打ち一教を研究しているが、まだまだ満足できない。流石に正面打ち一教は奥が深い極意技である。合気道の基本的な法則がぎっしり詰まっていて、その法則通りに体をつかわないと上手くできないようにできているようだ。

最近、ここで見つけた法則は「両手を同時につかう」である。相手の打ってくる手先を抑える手と相手の肘を抑える反対側の手を同時に出して抑えることである。両手が相手の手首と肘に同時に当たることによって、相手を崩し、そして導くことができるわけである。
以前も書いたが、本部で教えられていた有川定輝先生の晩年の正面打ち一教は、武術として隙も無く、相手の身も心も完全に殲滅する形であり、また、無形の美しい芸術であったが、確かに、先生の両手は同時に、一呼吸でつかわれており、それも最初の手首と肘を同時に抑えただけではなく、その後の相手の腕を上から抑えるのも、最後の抑え迄、両手を同時につかわれていた。
また、大先生の両手のつかい方もやはり同時に使われていたような気がする。大先生が技をつかわれる際は、必ず両手をつかわれており、片手だけしか遣わず、他方の手を遊ばせておくということはなかったように思う。今後、研究してみたいと思う。

これまでは、両手を同時に出しても、多少の時間差があったり、前に出す片手だけで、陽・陽でやり、反対側の手を出さなかったり、しっかりつかわなかったわけである。これでは正面打ち一教ができないのは当然であるわけである。

よく考えると、両手を同時につかう稽古は普段からやっている。例えば、横面打ちである。片方の手で相手が打ってくる手を抑え、他方の手で相手の首を切る。この時、両方の手は、時間差攻撃ではなく、同時につかっているわけだし、つかわなければならない。
また、坐技呼吸法でも両手を同時に出して相手に掴ませて一体化し、両手をつかって相手を投げ飛ばしている。

両手を取らせる両手取の稽古は、この両手を同時につかう稽古であるわけだから、両手取りで両手を同時につかう稽古をするのがいいだろう。
両手を同時につかう稽古は、木刀の素振りや杖の素振りでもできる。何故ならば、両の手が共に一緒に同時に動くからである。

しかし、正面打ち一教でも両手取でも、両手をいつまでも同時に仲良くつかうという事ではないはずである。両手をただいつまでも同時につかったのでは技にならないからである。両手はやはり、陰陽でつかわなければならないはずである。
つまり、両手は同時につかい、そして陰陽でつかうということである。