【第627回】 腹をつくる

これまでは腰腹は大事だと書いてきた。腰腹と手足の末端を結び、腰を体とし、腹を用につかって手足をつかわなければならないと言ってきた。
腹はまた、息を吐いて腹に力を集め、強い力を出す働きがあるわけだが、息を引き込むためにも重要な働きがあることが分かってきた。とりわけ、阿吽の呼吸は腹が出来ていないと出来ないようである。

腹も鍛えなければならない。しかし、腹を鍛えるというと、腹筋運動をすればいいと思うだろうが、腹筋運動では合気道の技がつかえる腹はできない。何故ならば、腹と技をつかう手足が連動して鍛えられないからである。腹の筋肉はムキムキになるが、ただそれだけである。西洋的な体の部分的な個別の鍛練ではなく、体の関係部位と繋がった、統合的な鍛錬をしなければならないのである。

更にこの腹の鍛練は、阿吽の呼吸とも関係あるように、天の呼吸、地の呼吸(潮の満干)により、宇宙とも繋がっていくためのものであるから、先につながる大事な鍛錬ということになる。

腹を鍛えようと、腹にいくら力を入れても、上記の腹筋運動のように合気道の腹はできない。その証拠に、誰もが毎朝、トイレに入って力んでいるのに腹はできていないだろう。

それではどのように腹を鍛えることができるのか。勿論、日常の相対での形稽古でできればいいのであるが、それは中々難しいわけで、何かそのための鍛練をやった方がいいわけである。
そこで私が最近やっていることを紹介する。

  1. 手の平を開き、腹から息を一寸吐いて手先から気を出し、気に合わせて手の平を更に開く。その状態から、今度は腹に息を入れ、手の平を更に開く。その状態から、息を吐いて腹を締め、手の平を更に極限まで広げる。
    手の平と腹が連動し、息によって腹が締まり、膨らむわけである。
    また、手の平を息に合わせて開くことによって、腹が鍛えられることにもなるわけである。
  2. 勿論、手と腹が結んでいれば、手の平を握ることによっても腹は締まる。イクムスビの息づかいに合わせて、手を握り込む鍛錬をすれば、腹も鍛えることになるわけである。
  3. 上記の1と2から、息に合わせて手を開いたり握ったりすれば、腹も鍛えられるわけであるから、普段の相対での形稽古で、手をしっかり開き、そして絞り込めば腹ができてくることになるはずである。
  4. 関節を伸ばし、鍛える柔軟準備運動で、鍛える部位のすべての運動を腹と結び、息に合わせてやることである。二教の手首や小手返しの手首に、十分な負荷を息に合わせてやれば、それだけ腹に負荷がかかり、鍛えられることになる。
  5. 木刀や鍛錬棒を息に合わせ十字に振るといい。振り下ろしたときに腹が締まるだけではなく、振り上げて腹に息を入れるとき、腹は気で満ち、腹が膨張するので、腹の鍛練になるのである。
  6. 勿論、足によっても腹は鍛えられる。足と腹が結んでいれば、地に着いた足裏から腹に力が伝わり、歩くほどに腹が鍛えられる。坂や階段を上り下りすれば更なる効果ある。だから、腹を鍛えるにも歩くのはいい。
  7. 究極の腹の鍛練は何といっても阿吽の呼吸を技の錬磨でつかう事であると思う。
    それを証明するのが下記の阿吽の呼吸の写真である。
これらのことからわかるように、腹は息、呼吸でつくるといっていいだろう。腹と体の部位を結び、腹に力を入れれば体の部位に、また、体の部位に力を入れれば腹に力が出る相乗効果が働くのである。