【第615回】 手と足を結ぶ

合気道の技をつかうに際して、体の末端の手足は、体の中心の腰腹と結び、腰腹でつかわなければならないと書いてきた。これは相対稽古で試し、実践してきたから間違いないし、誰がやろうが同じことのようなので、一つの法則である。現在だけでなく、過去にも未来にも通じる宇宙の法則と言うことになる。

しかし、これだけではまだ不十分だということが分かった。それを教えてくれたのは、私が合気道の奥義技と言っている、正面打ち一教表である。いくら注意して腰腹、手、足をつかってもいい技にならないのである。腰腹で足を撞木(十字)に運び、腰腹と結んだ手を陰陽十字につかっても、何かが不味くて、相手は心地よく倒れてくれないのである。

その不味い原因を見つけるために、いろいろ試行錯誤していたわけだが、まず、相手の打ってくる手を横に返すのではなく、接したところから今度は縦、つまり上に返さなければならない事がわかった。これは前回「第614回 十字の縦を足裏で」で説明している通りである。
これで大分よくなったが、まだ何か不足していることが分かった。

それは手と足が結んでいないことである。手先から足先までしっかりと繋がり、一本の軸としてつかわなければならないということである。
ただ単に手を上げても、手と足とは結ばないか、結び難いものである。手を下げるとき、振り下げるときは腹でやれば結ぶが、振り上げる時は足とは結び難いのである。

手と足が結ぶとは、手と足が筋肉などの物質で繋がるわけではなく、手と足に気(宇宙エネルギー)が通るということであると考える。
そして気は息によって出していく。下腹に力を入れ、下腹のその張りをそのままにして、息を上に上げると息と気が上に上がると同時に、腹から下にも気と力が地に落ちていく。
腹を中心に、気と力が上と下に流れるわけである。これが開祖が言われる摩擦連行であろう。

この摩擦連行によって、手と足が繋がるのである。この力を、息を吐いて腹に集める際も、腹でやれば手と足は結んでいるはずである。
手と足が腰腹を通して結べば、腕力ではなく、気で相手を抑え、導くことができるようになるようである。

尚、手と足が繋がるといっても単純ではない。例えば、右手を振り上げる場合、まず左足を支点にして右手を上げる。このときは右手と左足が結んでいなければならないことになる。次に右足の踵が床について右手が上がるわけだが、今度は右手と右足がしっかりと結ばなければならない。そして次に右足の踵から爪先に体重が移動すると、同時に左手が出てくるが、この時は、左手と右足が結んでいなければならない事になる。腰が十字に返っていくと、左足が出るが、今度は左手と左足がしっかり結ばなければならない事になる。
謂ってみれば、手と足を / | \ |のように繋げてつかうことになろう。

最後にひとつ、手と足を結んでつかうと、特に強力な力が出る技(形)がある。それは二教裏である。二教裏が効くためには、手と足を繋げて、そして腰腹をつかうことである。手や腰腹だけでは大した力は出ないものである。
正面打ち一教表が難しいようなら、二教裏で手と足を結ぶ稽古をしたらいいだろう。