【第604回】 十字のかかと

人の体は十字に働くようにつくられていて、合気道の技は体を十字につかわなければならないと書いてきた。
とりわけ手の十字については沢山書いたはずである。手は7つの関節でできているようだが、隣同士の関節は十字に働くようにできており、そして合気道では、手首から先の手の部分、肘から先の腕・手先の部分、肩から先の手先・腕・上腕部分、そして胸鎖関節を縦横の十字につかわなければならないと書いた。

上肢の手は十字で構成され、十字につかわなければならないわけだから、下肢の足も、十字でつかわなければならないはずである。
足を観察してみると、十字に構成されているのは、足首、そして屈伸をすると膝を支点として下腿と上腿が十字になる。これらはいずれも縦の十字である。
手には縦の十字(手首、肘、肩を支点としての縦(手先)の方向への十字)と横(地に対して平行)の十字(手首、肘、肩を支点としての手先の方向への十字)があるから、足にも横の十字(地に対して平行の十字)があるはずである。

それは股関節である。所謂、腰腹の十字ということになる。この重要性や働きはこれまで書いてきた。
そして更なる十字がある。それは足首、踵の十字である。左右の足底を十字々々になるように歩を進めるのである。これは「第602回 踵で十字」で書いた。
今回はこの十字の踵が如何に大事であるか、どのような働きをするのか、どのように鍛えればいいのか等を研究してみることにする。

第602回で書いたが、合気道の振り突きで、力が出て、伸びが加わるためには、撞木の足の踵が十字になることである。踵が縦から横になるときに手先に力が集中するのである。踵を十字にしないで突いた時とは質的、量的な違いができる。

同じように、剣を振る場合も、踵が縦から横になるときに、振り下ろす太刀に力が集中する。剣は踵を十字々々に返してつかえば、力がでるだけでなく、素早い切り替えしの動きができる。剣は手で操作するのではなく、腹腰から踵の十字で操作するのがいいようである。

槍(杖)の素振りでも、同じである。踵が十字にならなければ槍先に大きな力が集まらないで、先端がぶれてしまうものである。

従って、十字の踵のための鍛練は、上記の合気道の振り突き、杖の素振り、剣の素振りでやればいいと考える。
勿論、一番いいのは、形稽古の中で踵を十字につかうようにすることである。慣れてくれば、技の錬磨でも、準備運動でも、舟こぎ運動でも身につけることはできるようになるはずである。