【第602回】 かかとで十字

合気道は十字道ともいわれるように、十字は重要である。
これまでも書いてきたように、技は体を十字十字につかって生み出さなければならない。しかし、体を十字につかうことはそれほど難しいことではないはずである。何故ならば、人間の体は、以前からいっているように、本来、十字で動けるようにつくられているからである。自分の体をじっくり動かして眺めてみればわかる。
更に、人間の息(呼吸)も、縦横、腹式と胸式の十字に働くようにできているので、縦横の息で体を十字十字につかっていけば合気の技になるはずである。

これまでは主に、手首、腕、肩、腰の十字に重点を置いて研究してきたが、やはり下半身の十字も研究しなければならないと思う。
そこで今回は、体の最下端にある足底の踵(かかと)の十字の重要性について研究してみることにする。
以前は足の十字という表現で書いてきたが、今回はもう少し掘り下げて書くことにする。

まず、踵の十字とは、踵と他方にある足の内側面が直角(十字)になることである。尚、この十字は基本的に直角であり、技を掛ける際も基本的には十字であるが、この角度は変わってくる。例えば、半身で立った場合はほぼ直角だが、通常の歩きをする場合は90度〜20度前後、お能の場合などはほぼ両足が平行になる0度となる。しかし、この90度〜20度前後、0度も基本は直角の十字であると考えた方がいいだろう。

有川定輝先生は、この足づかいを六方に踏むとか、使うといわれていて、この踵の十字(六方)を重視されておられた。下記に、有川先生の正面打ち一教の足が、初めから終わりまで常に十字にある写真を紹介する。

踵を十字につかうのは容易ではない。やろうと思っても恐らくすぐにはできないはずである。出来るようにするためには、踵を意識して稽古することである。
まず、相対での形稽古で、踵を意識して技をつかう。そのためには、手と同様に、足を左右陰陽でつかわなければならないし、息に合わせてつかわなければならない。

また、踵が十字になるためには、踵からしっかりと床を踏むことである。爪先から突いてしまえば、十字の感覚は掴みにくいものである。足は踵から着けとの教えはここでも役立つ。(但し、入身投げで入る場合は爪先からである)

形稽古で踵の十字を身につけながら、自主稽古でも身につけていけばいい。
例えば、木刀の素振りで、踵が十字になるように稽古する。正面打ち、横面打ちを、踵が十字になるように、足で切る稽古をするのである。
次に、杖の素振り。杖を槍として突いて引く素振りである。踵を十字にして着くと強力な力が槍先に集まる。杖を引く場合も踵が十字になるように引く。踵を十字十字につかわないと強力な力は出ないようである。
つまり、踵の十字は強力な力も生み出すようである。有川先生の突きは恐怖を超えた“芸術”であったと思っているが、先生の踵は十字につかわれていたはずである。

踵の十字の研究と稽古をしていくべきだろう。