【第595回】 胸鎖関節の深考

合気道の技は主に手で掛けるので、手は重要である。手が上手く働かないと技は効かないことになる。
先ず、復習になるが、手とは体のどの部分を指すのかを確認する。手は指先から肩ではなく、胸鎖関節までである。従って、手には3つの指関節、手首、肘、肩、そして胸鎖関節の7つの関節が存在することになる。

合気道の相対稽古で技を掛ける場合、手先の力ではなく、腰腹の力をつかわなければならないが、初心者がつかう力はほとんどが手先の力である。手先の力は、肩からの力といえるだろう。肩からの力とは、肩から手先の力であり、肩からの力に頼って技をかけていると、力が出ないだけでなく、肩をいためることになるので要注意である。

さて、腰腹の力を手先でつかわなければならないわけだが、何故、遠いところにある腰腹の力を手さきでつかうことが可能なのかを研究しなければならないだろう。

合気道の稽古を進めていくと、段々と腰腹の力が手先に伝わっていくのがわかるはずである。つまり、手先と腰腹が結び、腰腹でその結んだ手先をつかうのである。手を掴んだ相手は、こちらの手を掴んでいるのだが、腰腹をつかんでいることになるわけである。

医学的に、胸鎖関節は、胸骨と鎖骨との間の球状関節であり、そして上肢(手)と体幹(腰腹)の連絡をする唯一の関節だといわれる。

つまり、胸鎖関節は胸骨と鎖骨との間にあるということである。(図参照)胸骨は縦で体幹(腰腹)の連絡を胸鎖関節でし、鎖骨は横で上肢(手)との連絡を胸鎖関節する。胸骨と鎖骨は胸鎖関節で縦と横の十字になっているわけである。
また、胸鎖関節は球状関節であるから動くということである。

腰腹の力は胸骨を伝わって胸鎖関節に行き、その胸鎖関節から鎖骨に沿って、肩、上腕、腕、手先に伝わるわけである。また、手先の力は胸鎖関節を通して腰腹に伝わることにもなるわけである。

胸鎖関節にカスが溜まって動かなければ、腰腹からの力は手先に十分伝わらないから、胸鎖関節が動いて働くことができるように鍛えなければならない。
まず、これまでやってきた手の関節のカス取りの延長上でやることである。
指関節、手首関節、肘関節、肩関節、そして胸鎖関節の運動である。例えば、両手を肩の高さで拡げて、胸を開いたり閉じたりする運動である。胸鎖関節が開いたり閉じたりするようにするのである。
相撲で柏手を打つのは、胸鎖関節を開いて閉じる動きでカスを取り、柔軟にし、体幹の力が上肢にくるようにするための運動と儀式でもあると思う。長年にわたって受け継がれてきた、柏手には、このような意味があったからこそ、長く続いているものと考える。
尚、横綱白鵬が、制限時間になって対戦する前に、胸鎖関節のところを毎回ピクピク動かすが、白鳳の胸鎖関節の柔軟性を表わしていることと、白鵬が無意識のうちに胸鎖関節がよく働くように、柔軟にしているように思える。

また、肩の高さまで上げた両手を、胸鎖関節を支点(胸骨と鎖骨との接点)にしてぐるぐる回す運動である。それまでの手首、肘、肩を回す運動の延長である。
胸鎖関節をつかう、働かすということは、簡単に言ってしまえば、胸を開いたり閉じたりすること、そして胸鎖関節を胸骨と鎖骨の接点を支点として上下し、回すことといえるだろう。

剣の素振りでも、胸を開いたり閉じたりして、胸鎖関節をつかって振るといい。
胸を開いたり閉じたりして胸鎖関節を柔軟にする運動として「船漕ぎ運動」がある。これを毎日、続ければいい。

ただし、注意しなければならない事がある。それは、手先と鎖骨や胸鎖関節腰、また、腹と胸骨や胸鎖関節は、完全には直接一本につながっていないことである。一本につなげるためには、息(呼吸)で繋げなければならない。