【第587回】 腰痛にならない体づかい

腰痛が起こる原因として一般的に、「姿勢の悪さ」「老化」「内臓の病気」「精神的ストレス」、そして「運動や労働」が挙げられている。
つまりは、誰でも腰痛になる危険性を秘めていることになる。

健康を求めて合気道をやっている人にも、残念ながら腰痛になる人が結構いる。これらの人は、腰痛になる上記の原因の一つ、または複数を潜在的に持ち、道場の外で、すでに腰痛を引き起こしているかもしれないが、恐らく、稽古によって腰痛になったものと考えた方が妥当だろう。

合気道で腰を痛める最大の原因は、体をひねって相手を投げたり押さえることにあると思う。体をひねると、腰もひねることになるから、腰に大きな負担が掛かるのである。
体はひねらずに返さなければならない。腰を十字々に返していくのである。ひねるとは、腰を十字ではなく、体の末端(体の中心の腰から遠い部位)から動かしてつかうことにより、結果的に体をひねることになるのである。

ここまでは以前にも書いてきたことなので、復習ということになる。
今回は、腰を痛めるさらなる原因とその解決法を書くことにする。

人の体の中心は、これまで書いてきたように「腰腹」であると考える。腰と腹の二つということであり、腰だけでもなく、腹だけでもないということである。
では何故、腰腹の二つでなければならないかということになるが、それは腰と腹の二つの相互の働きによって、体が上手く機能するからである。つまり、どちらか一方が欠けても、大きな力は出せないし、体の安定もないのである。

腰は、仏教用語での「体」(本体のこと)、腹は「用」(働き)である。
合気道の稽古において、腰腹をつかって技を掛け合うわけであるが、腰と腹の体と用を間違えてつかうと腰を痛めるはずである。例えば、相手を投げたり抑える際に、腹ではなく腰でやったり、地に足が着く際に、体重が腹ではなく腰に落したり、素振りや剣を腹ではなく、腰で振ったりすることである。

腰は体であるから、体の腰を働かせてはならないのである。働かすのは用の腹であるから、投げる、抑える、歩く、打つ・切るは腹でやらなければならないのである。

それでは腰はどんな働きをするかということになるが、腰は体であるから、腹のように直接は働かないが、じっとしながら重要な勤めをする。
それは腹からの力を腰が受けて、その力を足や手に送り、全身を気(エネルギー)で満たすことである。腰を抜きにした、腹からの力では手足も全身に力も気も満たされないものである。
それがよくわかるのは、剣の素振り、四股を踏み、それに呼吸法であろう。
イクムスビの呼吸に合わせてやってみればいい。

冒頭の腰痛の原因に、「運動や労働」以外、「姿勢の悪さ」「老化」「内臓の病気」「精神的ストレス」が挙げられていたが、これらの根本的な原因は、上記の腹を用としてつかわないで、腰を用としていることにあると考える。
「姿勢の悪さ」はその典型であろう。腹を張っているべきところを、へっこめ、腰を張って、腰を働かせていることになる。電車や喫茶店で座った姿、姿勢の悪い正座や胡坐にそれを良く見る。
後は、この「姿勢の悪さ」が連鎖的に、「老化」、「内臓の病気」、「精神的ストレス」つながっていくことになるはずである。

腰を立て、腹に力を入れて、腹を働かせるようにすれば腰痛は解消できると考えるし、合気道の稽古でもいい技がつかえ、そして元気に長く稽古を続けることができるだろう。