【第586回】 息の十字

合気道は十字道とも開祖がいわれるように、技は十字に掛けるようにできているし、そのため体も十字につかわなければならない。手先、腕、腰、足などを十字々々に返して円の動きにし、その円のめぐり合わせで技にしていくのである。
また、息も十字につかわなければならない。イクムスビの息づかいで、縦、横、縦である。そして縦の息づかいは主に腹、横は胸での息づかいであると書いてきた。これはこれまで書いてきたことである。

さて、今回はこの息づかいを更に深めて書いてみたいと思う。
これまでの息づかいは体、特に胸(肺)を鍛えることができるし、イクムスビの息づかいによって大きな力が出るようになり、また、技も効くようになる。しかし、この力も技もまだ目に見える魄の力によるものである。勿論、この魄の力も鍛えなければならないわけだが、これに留まっているわけにはいかない。合気道は魂の学びであるから、魂の技づかいに変えて行かなければならないし、少なくともその方向に変換し、進まなければならないからである。

「合気道の思想と技 第582回『相手の心を導く』」で書いたように、技を掛けるにあたっては、相手に掴ませる手を相手が引くように、相手の心を導かなければならないが、そのためには息づかいが大事なのであると書いた。
例えば、坐技呼吸法で最も大事で、そして難しいのが、この相手にこちらの手を引かせる心を起こさせることである。これができないと坐技呼吸法は押したり引いたりの坐り相撲になってしまうことになる。

相手の心を導くためにも十字の息づかいをしなければならないが、どのようにすればいいのかを、坐技呼吸法で説明してみる。
先ず両手を、相手に息をちょっと吐きながら取らせる。天の浮橋に立った状態になり、相手とくっついて一体化する。

ここから、相手との手の接点を動かさずに、締まっている下腹を息を入れて横(水平方向)に膨らます。下腹が支点となってどんどん横に膨らみ胸まで息(気)が満ちる。(注:ここが非常に難しいが最大のポイントである)

ここで相手がこちらの手を引いて自ら突っ張ってくる。
息が胸まで横に満ちると、同時に息(気)は下と上に働き、相手は浮き上がってくる。つまり、手を動かして相手を投げたり押さえるのではなく、息によって相手を導くわけである。

後は息を吐いて相手を自由に投げたり押さえればいい。

この息づかいで坐技呼吸法をやれば、呼吸力養成の鍛練をしていると実感できるし、呼吸法の意義と重要さがわかるのではないだろうか。

この息づかいは、合気道のすべての技、また剣の素振りでも同じであるから、剣の素振りでこの息づかいを身につけ、技に取り入れているのもいいだろう。
息も十字につかわなければならない事がはっきりするだろう。