【第564回】 尻の穴を締める

合気道に入門した頃、多田師範から技を掛ける際には「尻の穴を締めなさい」と教わった。しかし、尻の穴を締めるとはどういうことなのか、どうすれば締まるのか等分からず、その事は忘れてこれまで稽古をしていた。

やっと最近になって「尻の穴を締めなさい」の意味が分かってきたし、どのようにすればいいのかの課題も解決してきた。それにしてもその言葉を聞いたのは50年前にもなるのに、よく思い出したものだと、吾ながら感心している。やはり、一度見たこと、聞いたことなど体験したことは、すべて体に残るということなのだろう。

さて、尻の穴を締めるであるが、じっとしていればこれは誰でも容易にできる。しかし、合気道の技の稽古で動いていると思うようにはできないものである。尻の穴を締めようとすると、息がつまってしまったり、息が続かなかったり、動きが止まってしまう。

尻の穴を締めるためには息づかいが大事である。阿吽の呼吸やイクムスビの息に合わせてやるのである。
阿吽のア、イクムスビのクで息を入れながら尻の穴を締め、そして阿吽のン、イクムスビのムで息を吐き切り尻の穴を開いて締めるのである。

この呼吸で尻の穴を締めるための分かりやすい稽古として剣がある。剣を阿吽の呼吸やイクムスビで、尻の穴を締ながら振り上げるのである。というより、尻の穴を締めながら剣を振り上げるのである。慣れてくれば、剣のかわりに徒手でも同じようにできる。

尻の穴を締めながら剣や素手を振り上げると感じるはずであるが、その尻の穴を中心にエネルギーが地と天に流れるのである。力が正反対の上下二方向、そして慣れてくれば上下前後左右の六方向、つまり、全方向に流れるわけである。エネルギーが己を包み込むのである。

技を掛ける際も尻の穴を締めながらやるのである。すべての技でやるわけだが、その効用が最もわかりやすく、身に着けやすいのは二教小手回しであろう。二教を尻の穴を締めながらやると、大きな引力が発生し、相手の力と心を吸収してしまい、相手を自由に導くことができるものである。そしてこの後、息を吐いて技を決めるわけだが、力のあまりない相手ならその必要はなくなるようになる。

この尻の穴を締める効用は、合気道の技だけではなく日常生活でも活かせる。
例えば、便秘で困る場合があるだろう。ひどい場合は一般的には医者に行ったり、浣腸をするだろうが、武道家である以上自分で解決すべきだろう。
その解決方法に、この尻の穴を締めるがある。息づかいは阿吽かイクムスビ。通常人は、息を吐いてなんとか出そうとするものだが、上手くいかないものである。合気道的に云えば一方通行ということになる。物事は陰陽の表裏一体でなければならない。

尻の穴を締めながら息を入れ、そして息を吐いて尻の穴を更に締めるようにすればいい。息を入れて尻の穴を締めると、便は下に下りようとするのと、上に上がろうとするもの上下に別れる動きが起こる。そこで息を吐きながら少し緩んだ便を出すようにするのである。それでも出て来なければ、穴を締めて剣を振り上げて切り下す息づかい、また、二教裏を決める息づかいで、思いっきりやってみるといい。相当ひどい便秘でも出てくるはずである。

尻の穴を締めることが、技をつかうだけでなく、日常生活においても効用があるということは、尻の穴を締めることは一つの法則なのかもしれない。