【第515回】 胸を開く

最近、己の立ち姿、歩く姿を相対稽古で技をかける際に注意していると、胸が閉じて体が内旋した姿、いわゆる猫背で、見苦しい年寄じみた姿になっていることが気になった。

美しくない事は正しくないはずだから、これは何とか直さなければならない。胸が閉じ、年寄じみた姿勢の原因と修正法を考え、実行しなければならないだろう。

この原因は、まず人の動作が基本的に体の前面でやることにあるだろう。もし背中側で手を使うとしたら、胸は開き、背が閉じることになるはずである。特に、合気道の形稽古では、技を手をつかって体の前面でかけるので、胸に力が入り、胸が閉じがちになる。また、息を吐きながら技をかけたり、体の末端である手先から動かすと、胸が閉じがちになるようだ。

そこで、胸を閉じないで開くようにするにはどうすればよいか、を研究してみよう。この胸を開くというのは、稽古の時だけではなく、ふだんの立ち振る舞いにおいても胸が開いていることである。

我々合気道家は、まず合気道の稽古を通して胸を開くことを身につけ、そして、日常でもそうなるように習慣化すればよいはずである。

胸を開くためには、まずは意識して胸を開くことである。道場に立った時、稽古相手の前に立ったとき、それに技をかける際に、胸が開くように意識しながら動くのである。

しかし、胸を開こう、広げようとしても、うまくはできないだろう。それには、息のつかいかたが大事である。胸を開くには、息を胸に入れなければならない。息を吐いたら、胸は閉じることになる。ここは、胸式呼吸で息を横に入れるのである。そして、胸に入れた息を縦に腹に落とすのである。この息を胸に入れている間、そして腹に落としてる間は、胸は開いているはずである。

この胸が開いた状態を保持するのである。この状態での姿勢は、まっすぐなよいものである。肩はこらないし、息がしやすい。特に上下の息が自由に通ってくれる。そして、息によって体がつかいやすくなる。体の末端の手も自由に、大きく、速く動く。特に、手先に遠心力が働くようになる。

胸が開いてくると、胸が鎧のようになり、背中の筋肉と共に胸が閉じることを抑えてくれるようになる。また、胸の重力がずっしりと腹と腰に落ち、体が安定するようである。