【第496回】 内臓を柔軟に

健康で長生きするために、また、合気道の技をつかうためにも、体の柔軟性は重要である。体とは、骨・関節、筋肉・内臓、血管・血液である。柔軟ということは、柔らかく、伸び縮みし、弾力性があることである。すると、温かく、血行がよく、気(生命エネルギー)が通っている、ということになる。

逆に、硬い体とは、血液や気の循環が悪く、血行不良で冷たい体であり、体の中に老廃物が溜まっている、ということになる。これを合気道では、体にカスが溜まっている、という。このカス取りが稽古であり、合気道は禊ぎの稽古である、といわれる所以である。

稽古の初めに行う禊ぎである準備運動は、血行を良くし、血液の循環をよくするためである。それで稽古をやれば、汗をかき、血液のカスが自然に取り除かれ、循環もさらによくなる。

また、真剣に稽古していけば、骨・関節や手足を動かす筋肉も丈夫に、柔軟になる。技をかけ合い、受けをたくさん取れば、血液や気の循環がよくなる上に、丈夫で柔軟になるのである。

ここまでは、稽古を真面目にやっていけば、誰でも自然に身につけることができる。その上に、体の一部である内臓も、カスを取り、柔軟にしなければならないのだが、これは、前のものとは違い、意識してやらなければならないようだ。

人の寿命は内臓で決まる、といわれているように、内臓は重要である。だが、内臓を柔軟にするためにはどうするか、は難しいだろう。せいぜい稽古しながら、息があがらないようにして、心臓と肺を丈夫にしようと努めるくらいである。

しかし、内臓は心臓や肺以外にもあるし、それらをどのようにすれば柔軟にできるかは容易ではないだろう。

合気道では、内臓を五臓といっているが、この五臓はひびきによって柔軟にすることができる。また、柔軟にしなければならない、ともいわれている。

ひびきとは、波動、振動である。だが、体の上から器具などを使って五臓にバイブレーションをかければよいということではない。これは人工的であり、不自然な振動、波動であるから、五臓は振動を拒否するだろうし、五臓が柔軟になることはなく、かえって硬くなるのではないかと思う。

五臓が柔軟になる波動、振動とは、人工的ではないひびきである。一つは宇宙のひびきであり、言霊ともいわれるものである。これが、五体の細胞より入って、五臓六腑に喰い入り、光る合気をつくりだす、といわれる。だから、内臓が宇宙のひびきを捉えることができるように、柔軟にしなければならないのである。

さらに、「天地万有は呼吸をもっている。精神の糸筋をことごとく受けとめているのである。おのが呼吸の動きは、ことごとく天地万有に連なっている。つまり己れの心のひびきを、五音、五感、五臓、五体の順序に自己の玉の緒の動きを、ことごとく天地に響かせ、つらぬくようにしなければならない」(「合気神髄」)とあるから、己の心のひびきを五臓に響くようにもしなければならない。響くためには、五臓が柔軟でなければならないが、合気道は○△□の鍛錬により、そうなるようにできている、と教わっている。

己の心のひびきが宇宙のひびきと同じものなら、宇宙のひびきと協調するし、己と宇宙が一体となるはずである。宇宙に一体になるよう、そしてまた、宇宙の響きを己の心と協調して受信できるようにしなければならないのである。

内臓も柔軟にしなければならないが、真に柔軟にするためには、宇宙のひびきを感得できるようにすることであろう。