【第492回】 ひびく体をつくる

「合気とは言霊の響きによる禊の業をいうのである」とか、「合気道は音感のひびきの中に生れて来る。つまり音のひびきによって技は湧出して来る」といわれるように、合気道ではひびきが大事である。大事であるというより、ひびき無くして真の合気の技は湧出されないのである。

ひびきには、宇宙万物が生成された「宇宙の響き」と、心身の統一をまず発兆の土台とした「五体の響き」がある。合気道の妙諦は、五体の<響き>が宇宙の<響き>とこだまする<山彦>の道といわれているが、まず「五体の響き」から研究してみたいと思う。

五体がひびくためには、ひびく体をつくらなければならない。それを、ふだんの形稽古で身につけようとするわけだが、稽古をただ続けていれば身につくというものではないようだ。だから、ふだんから意識して身につけていかなければならない、と考える。

まずは敏感な体をつくることだろう。合気道では、体は気、流、柔、剛で構成されているといわれるから、これらの気、流、柔、剛の各々を敏感にしなければならない。そのためには、これらすべての体を柔軟にしたり、不要なカスを取り除いたり、十分な働きができるように質を高めなければならない。

これは己の体を敏感にするわけだから、ふだんの稽古をやっていればできることであるし、難しいことではないだろう。

次は、己以外にも敏感になることである。まず、相対稽古で技をかけあう相手を感じるようにするのである。技をかける際も、受けを取る際も、相手を感じていくのである。相手を敏感に感じることは、集中して稽古しないと難しいものだ。

相手を感じられるようになれば、今度は自然の気(生命力)を感じるように努めたり、対話をするのである。樹木や草花を、心でみるのである。たとえ見た目が地味で貧相な草花でも、アスファルトの隙間にひとつだけ生えているほこりをかぶった草でも、その生命力を感じ、りりしく、愛しくみえてくるし、宇宙天国建設の生成化育のためにがんばっている仲間と思えるようになるものである。

そこで、草木と対話ができるようになるはずだ。そして、合気道の教えである、万有万物は一家族ということが、実感できるようになる。

また、その心の目で太陽や月をみれば、我々に光と熱と力と愛を与えてくれていることがわかるだろう。何の見返りを要求することもなく、与え続けているのである。感謝々々である。

さらに、草花や日月をつくられた一元の大神の意思が、わかってくるはずである。この大神の意思を、合気道では“愛”と教えており、そして“愛”を護り育てるのが合気道である。つまり、「この道(合気道)の鍛錬は、森羅万象を正しく生み、護り育てる神の愛の力を我が心身のうちでする」(「合気神髄」)のである。

心身が敏感になり、愛の心を持てるようになれば、ひびく体をつくっていけばいい。その方法を開祖は、技の錬磨で技が言霊(ひびき)で出てくるようにする、といわれている。言霊が出るためには、天地の呼吸に合し、声と心と拍子が一致しなければならない、といわれる。よほど真剣に、そして、集中した稽古をしなければならないだろう。

人間が本当に集中できるのは3,4分といわれている。だから、3,4分だけ力一杯、気合を込め、精神を集中し、拍子が狂うことのないように稽古していくことだろう。

この「五体の響き」ができてくれば、きっと「宇宙の響き」と共鳴することになるのだろう。だから、まずはひびく体をつくらなければならないだろう。