【第489回】 次の体(たい)づくり

合気道は技の形を錬磨して精進していく武道であり、技がうまく効くようになれば、上達した、精進した、といえるだろう。だから、相手に少しでも技が効き、相手が倒れるように稽古しているはずである。

そのために、これまで体をどのようにつくっていけばよいかを研究してきたわけである。

しかしながら、合気道の形稽古の目的は、どうやら技が上手になり、敵を制することではないようである。柔術の時代や合気道初期の稽古の目的は、敵に負けないこと、そして、敵を制することであった、と確信する。どんなに偉そうなことをいっても、力負け、技負けをすれば、お終いであったはずだ。だから、先生方や先輩方は確かに強かった。そのために技の形稽古をされていたからであろう。

だが、開祖は合気道の形稽古は「体の節々をときほごすための準備です」といわれているのである。つまり、形稽古は何かの準備をするためにやる、というのである。そして、この準備の目的は「六根の罪けがれをみそぎ淨めていく」ことである、といわれているのである。

合気は「みそぎ」であり、「武の大道」である、ということは開祖から度々聞かされた。だが、当時は汗をかいて体がきれいになるのが「みそぎ」だろう、くらいにしか考えなかったのである。だが、最近になって、ようやくその意味が分かってきたようだ。

開祖は『武産合気』の中の「合気修業方法について」で、気体・流体・柔体・固体の全身の各部位に対して、気魂のひれぶりが必要である、といわれている。全身を四つの機関に分類して、これらの四つの全身機関を禊がなければならない、そして、その禊のためにはひれぶりが必要である、といわれるのである。

開祖は、気体とは自分の心身を覆う衣服のようなもの、流体は血液、柔体は肉、固体は骨などである、といわれている。これらが滞って溜まったカスを取り除き、よりよく働くようにするために、形稽古を通して、物理的な体づくりをするわけである。これは、魄の体づくりといってよいだろう。

さて、その次の体づくりであるが、これは魂の体づくりである。ひれぶりによって禊ぐ、ひれぶりによる禊の体づくりである。宇宙のひびき、言霊、魂などによるひれぶりで、気体・流体・柔体・固体を禊ぎ、体をつくっていくのである。これまでの体づくりとは違った、つぎの次元の新しい体づくりである。

このためには、宇宙と結んでいかなければならないだろう。そして、宇宙と結ぶことができるようになれば、合気道の目標である宇宙との一体化ができるようにもなるだろう。

ひれぶりで体をみそぐ修業に入るわけであるが、これまで通り形稽古で技の生み出しをしながら、これを会得していかなければならない。これを、開祖は「体と精神と共に、技を産み出してゆく。その技の中に魂のひれぶりがあればよい」といわれているのである