【第466回】  引く息を鍛える

合気道の稽古の基本は、形稽古である。基本の形を繰り返し繰り返し稽古しながら、形を覚えるとともに、法則を見つけ、そして、それを身につけ、宇宙の営みに合致し、宇宙と一体化しようとするのである。

基本の形は誰でも2,3年で覚えるだろうが、多くの稽古人が陥る過ちは、形で相手を倒すことができると思ってしまうことである。形で相対稽古の受けを倒すのだが、形の中に技がなければ、受けを倒すことはできない。つまり、技のない形では、相手を倒すことはできないのである。

従って、繰り返して稽古している形に、技の魂を入れなければならないのである。合気道の技とは、宇宙の営みを形にしたものであり、法則であり条理である、と教わっている。この宇宙の法則に則った技を形の中でつかっていくためには、己の身体も法則に則ってつかわなければならないから、それも鍛えなければならないことになる。

今回は、モノを生み出す潮の干満の内で、特に「干」、つまり「引く息」に的を絞って研究することにする。

初心者と組んで形稽古をすると、だいたいはこちらを倒そうとして、息を吐き、力を込めて倒そうとするものだ。力を入れ、力で押しつけてくるので、こちらはますます地に密着し、安定してしまう。すると、受けを取ってやることも難しくなってしまう。これは、息のつかい方が間違っているわけである。

息は、生産び(いくむすび)でなければならない。イと吐いて、クと吸って(入れて)、ムと吐くのである。特に、クと息を引くところを、たいていは吐いてしまう。例えば、諸手取呼吸法で、イと息を吐きながら手を取らせ、次に諸手で抑えさせた手を上げるわけだが、その時に息を吐いてしまうのである。これでは持たせた手が自由に動かないし、十分な力も出ない。すると、結果的には争いになるのである。

吐く息はふだん本能的につかっているから、いつでもつかえるように思うだろうが、クで息を引く(息を吸う・入れる)のは、意識して鍛錬しなければならない。

引く息の特徴としては、○引く息は自由であり、息の長さや強さを自由にできる ○力加減や陰陽を適度に調節することができる ○相手と一体化し、相手を導くことができる ○争いに成り難い ○己の力が抜けて、我がなくなる、等があるだろう。

次に「引く息のつかい方」と鍛錬法である。引く息は胸式呼吸で、横の息づかいである。イと腹式呼吸で縦の息をつかった後、クと息を吸うのである。そして、またウと腹式呼吸で縦の息をつかって収めるのである。つまり、腹式呼吸、胸式呼吸、腹式呼吸、そして縦、横、縦、の十字の息づかいである。

先述のように、初心者は本能的に腹式呼吸の吐く息で技をかけようとするものだ。しかし、これでは技がうまく効かない。まずは、この十字の呼吸を身につけなければならないだろう。

クの息づかいで大きく息を入れる、速く入れる、長く保つ、などして技をかけていけば、胸式呼吸が鍛えられ、そして、大きい力の呼吸力が養成されるようになる。引く息を鍛えることも大事なのである。