【第465回】  生産び(いくむすび)の呼吸で体をつくる

開祖は「日本には日本の教えがあります。太古の昔から。それを稽古するのが合気道であります。昔の行者などは生産びといいました。イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸う。それで全部、自分の仕事をするのです。」(合気神髄)といわれている。つまり、この生産びの呼吸をつかって、全ての仕事、自分の仕事、要は合気道の技を、これでやらなければならないわけである。

従って、合気道での技の錬磨の稽古においても、技をかける際はこの生産びの「イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸う」で納めなければならないことになる。「生産び」に関しては、『合気道の思想と技』の第409回「生産びで仕事をする」に書いておいたので、説明は省く。

今回の、この項の主題である『合気道の体をつくる』ためには、やはり生産びの呼吸が大事であり、生産びで体をつくるべきだと考える。

技(の形)を錬磨することによって、体のすべてがつくられていけばよいわけだが、ご承知の通りそれは不可能なことであり、鍛えられないまま残されたり、鍛え不足の箇所があるものである。

合気道の体は、弱い個所、機能不全の部位などを、少しでもないようにしなければならない。そうしなければ、稽古相手と結ぶことも、そして、宇宙と結ぶことも難しいからである。また、武道的にいえば、敵は必ず弱点を攻めてくるから危険でもある。

己の体の平均レベルより劣っている箇所は、人によっても違うが、一般的、つまり、合気道家に共通しているものもあるようだ。その弱点を強点に変えたいと思うだろうが、どうしたらよいか分からずにいるようである。

今回は、そのいくつかを取り上げて、生産びでの鍛え方を書いてみることにする。

手の平:手の平は、平らに伸ばしてつかわないと、技はかからないものである。だが、なかなか真っすぐ平らには伸ばせないであろう。日常生活ではそこそこまっすぐになれば支障はないため、特に真っすぐにする必要もない。稽古では真っすぐ伸ばさなければならないのだが、手の平を平らにして、手が肩先から手先までまっすぐにしようとしても、どうしても手先の部分、手の平が内側に曲がってしまうのである。

手の平を平らにまっすぐ伸ばすには、力んでも駄目で、この生産びの呼吸をつかわなければならない、と考える。まず、イと息を吐きながら手の平を広げ、次にクと大きく吸うと、手の平は大きく広がり、平らに、そしてまっすぐに伸びる。そして、更にムと吐くのである。そうすると、手の平はさらに最大限に広がる。これを繰り返し稽古すれば、手の平は平らに、まっすぐ伸びるはずである。

こぶし(拳):合気道では、仮当てはあっても、実際に受けの相手にこぶしを当てることはない。しかし、これも合気道のジレンマであり、パラドックスであるのだが、当ててはいけないが、当てること、当たったことを想定して、こぶしを鍛えていかなければならない。そうしなければ、たとえ仮当てであっても様にならず、効果もない。また、万が一当たった場合に、怪我をすることになる。

こぶしは握った際に、隙間がないように握らなければならない。だが、どうしても隙間ができてしまって、固くは握れないものである。

こぶしを隙間なく固く握るのも、生産びで手の平を鍛えるのと同じように鍛えればよい。イと息を吐きながらこぶしを握り、握ったところでクと息を吸うと、こぶしの隙間が無くなってくる。さらにムと息を吐くと、こぶしの隙間がさらに減って、こぶしが一層しまり、堅固なこぶしができる。

この生産びの息づかいと手のつかい方は、手刀を鍛えたり、その手刀で切り下したり、袈裟切りの稽古でつかうことができる。また、これをつかわなければならないのである。

さらに、技の稽古の前の基本準備運動である「手の関節の鍛錬」も、この生産びでやらなければならない。技の稽古でも、準備運動でも、生産びの息づかいになることである。

つまり、すべての仕事は、この生産びでやらなければならないのである。