【第461回】  引力の養成

合気道修業の目標のひとつは、引力の練磨である、といわれる。修業の最終目標は宇宙楽園建設のお手伝いをすることだと考えるが、そのためには、宇宙の営みを形にしたといわれる宇宙の法則を身につけて、宇宙との一体化がなされなければならない、というものである。

そして、宇宙の法則を身につけ、宇宙と一体化するためには、引力の錬磨が必須である、ということであると考える。

合気道の引力とはどういうものであるか、また、どうすれば引力が発生するのか、そして、その引力を錬磨とはどのようにすればよいか、を研究してみることにする。

1.引力とはどういうものか、また、どうすれば引力が発生するか
合気道は相対で稽古するが、技をかける取りが、攻撃してくる受けに接した時点で、受けとくっついてしまうのが引力である。合気道的にいえば、結んでしまうことである。片手で持たれようと、諸手であろうと、また、正面打ちで打たれようと、接した時点でくっつけてしまうのである。従って、受けの相手が打ってくる手を弾いてしまったり、持たれた手を離されたり、離してしまったりすれば、引力がないということになる。

技をつかうに際しては、この相手と接する最初の瞬間が大事である。その最初の瞬間に引力で相手と結ばなければ、技が効かず、あとは魄の力をつかわなければならなくなるからである。

しかしながら、出した手を相手に取らせ、引力で相手と結ぼうとしても、なかなか結べないものだ。それは、力で押したり、落としたり、相手を倒そうとしてしまうからである。

引力で相手を結ぶには、法則がある。それには、まず、開祖がよくいわれる「天の浮橋に立たなければならない」。例えば、取らせた手は天の浮橋にあるがごとく、上下前後左右に隔たりがないように出さなければならない。力まず、しかし、全体重がそこにいつでもかけることができるようにしなければならないのである。そのためには、腰腹から力と気持ちを手先に流し、腰腹で調子を取らなければならない。この時に、取られた手先から先に動かすと、天の浮橋に立つことはできず、引力は発生しないことになる。

次に、相手の中心を突き、その中心を抑え、そして相手の全貌を捉えなければならない。中心が外れていれば、引力は発生しないのである。受けの相手は、無意識のうちにその中心をずらそうとするから、中心を抑えるのは容易ではないはずだ。

さらに、大事なのは息づかいである。手を取らせるなど、相手と接するまでは息を吐くが、技をかける時は息を入れ(吸い)、技を収める時には息を吐くようにするのである。

もう一つ、大事なことがある。それは、心である。稽古相手を敵とみたり、投げたり抑える対象と思って相手に接すると、力と心が反発し合って、引力は発生しない。稽古相手は自分のサポーター、技の判定者、先生である、と思って接しなければならない。さらに、人はみんな家族であると思って稽古しなければ、引力を発生させることも、養成することもできないだろう。要は、息と気持ちで相手と接し、相手を誘導していくと、引力が出てくるようである。

2.引力の養成
前項の1.で、最初に相手と接する瞬間が大事である、と書いたが、これが先ず一つの引力の養成であり、重要な養成法である。なぜならば、この最初に引力が働かず、相手と結ばなければ、さらなる引力の養成ができないからである。

合気道は技の錬磨を通して精進していくわけであるが、技の錬磨とは宇宙の法則を見つけ、そしてそれを身につけていくことと、呼吸力を養成していくことである、と考える。そして、この呼吸力と引力とは表裏一体ではないか、と考える。なぜならば、呼吸力のある人は、相手をくっつけてしまう引力もそれに比例して強いように思えるからである。

呼吸力と引力が表裏一体だとすれば、引力の養成は呼吸力の養成と同じということになる。だから、呼吸法(呼吸力養成法)を多く稽古したり、宇宙の法則に則った体づかい、技づかい、息づかいなどをしながら、そして、相手との結びが切れないように力いっぱい稽古していけば、引力のある呼吸力がついてくるものと考える。これが、引力の養成ではないだろうか。