【第460回】 狭義の手刀(てがたな、しゅとう)

「合気道の動きは剣の理合であるともいわれているほど、その動きは剣理に即している」(『合気道技法』)といわれるように、合気道の徒手での技の錬磨では、手を刀のようにつかうが、手刀を上手につかわなければ技は効かない。正面打ち一教でも二教でも四方投げでも、手を生きた手刀でやらなければよい技は出てこない。

手刀とは、通常、指をじゅうぶんに開いた場合の手先から肘までや、手先から肩先をいう。これが、広義の手刀ということになる。尺骨が刃、橈骨がミネ、手先が切っ先となるものであり、切っ先や刃で相手を切るつもりで、手を刀のようにつかうのである。

さて、広義の手刀に対して、狭義の手刀がある。この狭義の手刀は「小指の付根の部分から手首にかけての部分」と『合気道技法』に書かれている。

これまで勉強不足で見落としていただけでなく、「掌底」を誤った使い方で書き続けていた。反省ともに、ご迷惑をおかけした方々にお詫びする。今後、「掌底」と書いてきた箇所を「手刀」に訂正していくが、訂正漏れがあるかもしれないので、その節はご容赦願いたい。

なお、掌底とは手の平の付け根部分である。こぶし打ち禁止の格闘技などで、掌底打ちでつかう部位であるが、合気道でも開祖が居られたころの稽古では、掌底で相手の顎を打つなど、稽古の中でたまにつかわれていた。最近では、危険なのでほとんどつかわれなくなったようだ。

狭義の手刀と掌底を図で示すと、右記のようになる。

この狭義の手刀は、正面打ち一教でもわかるように、非常に大事な部位である。相手が打ち下ろしてくる手にくっつけ、相手の力を受け止め、相手を吸収してしまうには、この手刀の働きが大事である。ここが十分に働いてくれないと、正面打ち一教はうまくいかないだろう。

『合気道技法』では、「この手刀は、全身の力の集約点である人体の重心から働く力が直結している故、正しい体の動きによってこれを使用した場合、合気道でいう、力強い呼吸力の発揮となってくる」と、狭義の手刀の重要性を説明している。

手刀には、広義の手刀と狭義の手刀があるので、注意を要する。手を手先から肘や肩先まで刀としてつかう広義の手刀と、力を集中し、呼吸力を発揮する狭義の手刀の二つであり、二つとも稽古していかなければならないのである。


参考・引用文献 『合気道技法』植芝盛平創始者監修 植芝吉祥丸道主著 (光和堂)