【第441回】 接点に己の体重がかかるよう

合気道は相対で技をかけ合いながら錬磨していくが、かけた技はなかなか思うようには効かないものである。技が効かないということは、技をかけても相手が倒れてくれない、ということである。相手が嫌がってがんばるのを、無理やり投げたり、抑えることができたとしても、技が効いたことにはならない。なにしろ、合気道では、相手を倒すのではなく、相手が自ら倒れなければならない。技は、相手を倒さずに、しかも相手は倒れなければならないのである。

相手が倒れるためには、いろいろな要素や条件がある。その一つに、技をかける際に最大の力を出すためには、力を集中してつかうことが必要な要素となる、と考える。特に大事なのは、相手との接点にある箇所に、体重をかける力である。手首をつかませれば手首の接点に、胸を取らせれば胸の接点に、己の体重の力が集中するようにするのである。

その典型的な例として、誰もが経験し、苦労したであろう胸取り二教がある。手先だけの力ではどうしようもない。胸を取らせた胸取りで二教をかける時の力は、部分的な手の力ではなく、体重、すなわち自分の体の重みでかけなければならないのである。正確にいえば、接点には、いつでも体重がかけられるようにしなければならない。

接点に体重をかける分かりやすい例は、片手取りであろう。手を相手に持たせて、相手と接すると、己の体重を相手との接点にいつでも流すことができなければならないのである。

接点に己の体重をかけるためには、まず、力まないことである。力んでしまうと、腰や足からの力は手先まで流れず、分散・離散してしまう。

力まないためにも、まず、天の浮橋に立たなければならない。天の浮橋に立った手は、己の体重が乗っている手であり、これは軽くて重い手となる。そうなれば、いつでもその接点に体重をかけることができるのである。

息づかいも、大事な要素である。縦の腹式呼吸と横の胸式呼吸の十字の呼吸、そして、生結びの呼吸である。これを間違えれば、接点から力が失われていく。

体は部分々々を統合するが、つかう時には一瞬だけ、部分を使うようにするのである。例えば、正面打ち一教では、相手が打ってくる手を、こちらの手刀でくっつけるのだが、この接点にある手刀で相手をくっつけて一体となる。技をかける際には、手首から先の掌だけしか動かしてはいけない(有川定輝師範伝)。腕や上腕などを一緒に動かしてしまうと、力は分散してしまう。これを有川師範は、「バラバラ事件だ」といっておられた。

このバラバラ事件で技がうまくかからない典型的な技として、横面打ちの呼吸投げや四方投げがある。掌だけでなく、腕や上腕も一緒に動かしてしまうと、手刀に力が集まらないのである。

半身半立ちの四方投げは、持たせた手の接点に体重をかけないと、効かない典型であろう。相手が多少力を入れて持っても、こちらが体の力をつかってやるなら、その力の差と違いは歴然とする。半身半立ちの四方投げで、体重の力、正確には、体重の抗力をつかう稽古をするとよい。

接点に己の体重をかけてやるのが分かりやすいのは、座技呼吸法と考える。持たせた手の接点に、己の体重をかけて、気持ちと息でやるのである。

自分の体重がつかえるようになると、摩訶不思議な力が加わってくるようである。これまでは、己が出した力に比例して、受けが反応していたのが、それほど力を入れないのに、予想以上の反応が出るようになるのである。

その力は、自分の力ではなく、自分以外の力、天地からの力、宇宙の力、といわれるものではないだろうか。まずは、己の体の力を十二分につかえるようにすべきだろう。そうすれば、次の力が待っていて、摩訶不思議な力が備わるのではないかと考える。