【第434回】 腰で手をつかう

前回は、腰と結んだ力のさらなる力とは、どのような力なのか、どうすればそのような力が出るのか、を書いた。今回は、それを合気道の稽古で具体的にどうすればよいのか、を書いてみる。

自分が初めてこの力を得ることができた座技呼吸法で、説明してみよう。

  1. 最も基本であるやり方として、相手に両手をつかませる。相手が手をつかんでも、つかませた手を動かしてはならない。相手との接点を動かしてはならない、という法則の違反になるからである。初心者にとって、最初で最大の関門である。
  2. 両手を持たせたら、接点を動かさずに、呼気により腰腹で手を前に少し進め、相手の腰や相手の中心と結んで、相手と一体化する。相手との一体化なくして、いかなる技もつかえないし、技にはならない。この座技呼吸法だけではなく、他の呼吸法(諸手取・片手取り)や、四方投げ、天地投げ等でも同じである。まずは相手との一体化、つまり、二人が一人となる1+1=1になることである。
  3. 次に、相手との接点となっている自分の手を動かすことなく、その対照にあって、力の源となる腰を遣うことになる。だが、その遣い方は非常に繊細である。
    腰の力が手先に伝わるためには、まず腰と手先が結ばれる、つまりつながらなければならない。そのために、相手と結んだまま、相手との接点の手を動かさず、吸気で腰を沈める。吸気のまま、気持ちを残したまま、持たせている手も同時に脱力すると、接点にある手先と自分の腰が結ぶ。そうすると、自分の腰と相手も結ばれることになる。
  4. 正面を向いている腹を、約45度、具体的にはヘソが正座している太もも・膝が向いている方向まで、外転させる。それに合わせて、腰で両手を縦・横・縦と螺旋でつかうと、相手は浮き上がってくる。
これは、ある程度体を鍛え、股関節が動き、折れない手ができれば、できるものだが、心がそれを邪魔してしまうため、難しくなるのである。まず相手をやっつけよう、倒そう等と考えないことである。そのような争う心、闘争心が起きたら、技にはならない。

正しい過程の結果、相手は倒れてくれる、ということを自覚しなければならない。正しい過程とは、自然であり、無理がない、ということである。自然で無理がないということは、法則、宇宙の条理に則っているということであり、誰も逆らえないだろうし、敵わないはずである。実際に、くっついて浮き上がってくる相手を見ていると、投げられるのを嫌ということなく、気持ちよさそうに倒れていくのである。

この腰で手をつかうやり方で、座技呼吸法をやると、相手の重力が消えてしまう瞬間ができるのである。もちろん、立ち技での諸手取や片手取り呼吸法でも同じように、相手の重力が消えてしまうし、一般の基本技(四方投げ、小手返し、入身投げ、天地投げ、二教等)でも同じである。

このやり方で技をかけると、多少力の強い相手、重い相手でも、重力を消せるようになる。これが、合気道いうところの魂の力である、とは言わないまでも、魄を脱するための力ではないか、と考える。

この力に、天地の力が加わってくれればよいのだろう。まだまだ先があるわけである。