【第433回】 腰で手をつかうために

合気道では技の錬磨の稽古において、手先に力を集めて技をかける。力は大きいほど技は効きやすいから、手先には大きい力が集まるようにしなければならない。

初心者はここで、大きい力、強い力を出すのは手先から、と思ってしまうようだ。そのために、手先に力をこめ、手先を先に動かしてしまう。だが、手先の力など、大した力ではないのである。それよりもっと大きい力があるし、遣えるということである。

大きい力とは、いつも書いているように、腰からの力のことである。手先と腰を結び、腰から手先に伝わる力である。どんなに太い腕でも、腰より太い腕などないので、その腰の力がつかえれば、自分の手の力だけでなく、相手の手の力をしのぐことになるはずだ。

確かに、理論的にはそれは正しいわけだが、実際には腰の力を十分に手先に伝えるのは、そう容易ではないだろう。

腰と手足を結んで、その結びが切れないように腰で手をつかえば、大きい力は出るものだ。これは、手先からの力とは全然違うのである。力の弱い相手や初心者には、その力で技をかけるとよく効くだろう。

だが、力のある相手や、同じように腰と結んだ手の力で相手に持たれたり、おさえられたりすると、力が拮抗するので、おさえられた手を自由につかえなくなってしまう。

例えば、諸手取を考えてみることにする。腰と結んだ手をつかうだけでは、限界があるだろう。この力は手先の力に比べれば相当に強いが、直線的であり、まだ魄に頼った力といえるだろう。つまり、ここにはまだ改善の余地があるということになる。

それでは、さらなる力とはどのような力なのか、どうすればその力が出るようになるのか、ということになる。その基本は、合気道の技の根本理念である、十字、螺旋、生結びの息遣い、ひれぶり等である。

  1. 腰の力は地から来る重力(体重xスピード)の抗力であるから、自分の体重を地に落とすと、その抗力が足・脚から腰(股関節)に集まってくる。
  2. 脚に縦に上がってくる力を、大腿骨と股関節の接するところで横に流す。縦から横への十字である。
    縦からの力を横に流すためには、気持(心)と息(呼吸)で導かなければならない。心で誘導した息、吸気でやるのである。つまり、息を入れながら、脚からの力、エネルギーを、股関節が他方の脚の上にくるようにずらしながら、横に引き出すのである。
  3. 股関節が横に動いて止まると、今度はその力が背中を縦に進んでいく。息を吸いながら、背中を開き・閉じすると、その力は増幅し、胸鎖関節から肩へと伝わっていく。
    この背中の開閉が大きければ大きいほど、大きい力が出るようである。鳥や魚のエイのように、背中を手のようにつかうのである。ただし、背中は開閉するだけでなく、十字の螺旋で動くようにしなければならない。
    開祖は「ひれぶり」ということを言われている。この背中の開閉運動のこともいわれていたのではないかと考える。
  4. あとは、この肩からの力を肩甲骨で増幅し、手を螺旋でつかいながら手先に集め、技をかけていけばよい。
    つまり、腰と背中、肩、肩甲骨、腕、手先を結んで、どこの箇所も腰でそこを動かす。そして、また、腰から、背中、肩、肩甲骨、腕、手先の順に動かして、接点である手先は最後に動かすのである。
このように、腰と直結して手を遣うのではなく、股関節、背中、そして、長い手を息にあわせてつかう方が、大きい力が出るわけだが、この力は通常の力とは質が違う力なのである。いうなれば、自然で、嫌味がなく、逆らえない、また逆らう気を起こさせない力といえるだろう。これが、合気道が求めている力、魂の力を得るための試金石である、と考える。

次回は、この『腰で手をつかうために』を、実際の稽古でどのようにすればよいかを、具体的に例で示してみることにする。