【第430回】 天地の力を

合気道は相対で技をかけ合いながら精進している武道であるから、力は必要になるし、力はある方がよい。しかし、この「力」にはいろいろな段階の力がある。稽古が進むにつれて、それが分かってくるはずである。

初心者の段階での「力」は、腕力といわれるものである。体力や腕力にものをいわせる力である。体が大きく、腕が太い人には有利であり、一見すれば予想がつくものである。強烈であっても相手を弾いてしまうような、引くか押すかの一方方向にしか働かない力である。

次の段階での「力」は、腰からの力である。手先と腰がつながり、腰から手先に伝わる力である。
この腰からの力を出すべく通常鍛錬するのが、諸手取呼吸法である。相手はこちらの一本の手を諸手でつかんでいるので、相手の諸手に優るものをつかわなければならない。それが、相手の諸手よりも強い体幹であり、腰なのである。

諸手取呼吸法をしっかり稽古すれば、腰からの力が出てくるようになる。諸手でつかまれても、それを制することができるようになるのである。
しかし、その内に受けの相手が腰からの力でこちらの一本の腕を諸手で抑えてくると、お互いが腰からの力をつかっているので、互角になってしまう。ましてや相手は諸手、こちらは片方だけである。

この段階の鍛錬稽古も、十分にやる必要がある。できないからといって、相手に力を入れるなと注文したり、相手にしっかり腕をつかませないでやったのでは、稽古の意味がない。

まずは、できない事を確認し、自分の力不足、実力不足を認識することである。そこから、新たなスタートがきれるのである。また、この段階で培った力が、次の段階で生きてくることになる。

さて、ここまでの段階では、腰から、さらに全身からの力をつかって、腰からの力を養成してきたわけであるが、それでも十分な力にはなっていないわけである。相手は動いてくれないし、相手を納得させることもできないのである。この理由は、人間の力だけでやっているからだと考える。

相手が納得してくれれば、相手は自ら喜んで倒れてくれるはずである。
相手が喜んで倒れてくれるためには、そのような「力」をつかわなければならない。それは、一方方向的な力や弾き飛ばす腕力という力ではなく、相手とくっついてしまう引力のある呼吸力という力であるということのほかに、人間を超越した天地の力をお借りしてやることだろう。

天地に、人は逆らえない。人は天地に生かされているからである。天地の力は人が予想できない、制御もできない膨大なものである。

天の息、地の息に合わせて、体をつかい、技をつかえば、自分だけの力とは違う力が出てくる。相手の心を動かし、自ら喜んで、抵抗なく倒れてくれる力である。この力こそ、合気道が求める魄を脱し、その魄を裏に控えさせ魂を表に出した力であると考える。

次回は、天地の力をどのように自分の体に取り入れ、つかっていけばよいかを書いてみることにする。