【第429回】 腰に力を、腰から力を

腰という字が、体(からだ)の要(かなめ)という意味を現わしている通り、腰は非常に重要な個所である。だが、医学的には腰とはどこか、どのような働きがあるか、等の定義はないようである。

だが、日常生活においては「腰」という言葉があるし、その働きも定義されている。辞書によれば、腰とは「人体で,脊柱(せきちゆう)の下部から骨盤のあたり。体の後ろ側で胴のくびれているあたりから,一番張っているあたりまでを漠然と指す。上体を曲げたり回したりするときの軸になり,体を動かしたり姿勢を保ったりするときに重要なところ」ということである。

つまり、腰とは、ある部位を漠然と指しているもののようであるが、体を使うためには重要なところなのである。

これまで、合気道の技を少しでも上手につかうために、体をどのようにつくっていけばよいか、400回以上にわたって書いてきたが、振りかえってみると体の末端から中心に向かって書いてきたようだ。実際に、合気道で体を鍛えるには、自分だけでなくたいていの稽古人が、体の末端から中心に向かって鍛えているといえるだろう。

論文では、指先、手首、肘、肩、肩甲骨、そして胸鎖関節へと、体の末端から中心に近づいてきている。今回は、いよいよ体の中心である「腰」について研究してみたいと思う。

腰が体の要であるというのは、次のようなことではないだろうか。腰に力を集め、そして、その力を腰から出す訳であるから、体の力の中心ということになろう。また、合気道的には、手足の末端の力が腰につながり、腰と腰からの力が手足の末端を動かさなければならない、ということであろう。

まず、腰に力を集めるということは、地からの抗力を腰に集めることである。合気道の場合は、天地の息(縦の息)に自分の息を合わせ、息を抜きながら吐いて体を落とすと、落とした体の抗力が地から戻ってくる。これを、体の中心の腰に集めるのである。

そして、腰に集めたその力を、背中を通し、胸鎖関節、肩甲骨、肩、上腕、腕、手先の順で伝搬する。腰と手先の末端は結ばれていて、つながっているはずであり、腰と手先の途中のいずれの個所も腰と結ばれているはずである。(そうでなければ、つながるように稽古しなければならない)そこで腰を動かす事によって、手先の末端も、途中の個所も、自由に動せるようになるのである。

では、腰を鍛えるにはどうすればよいのか、いろいろあるだろうが、大きくは二つになるだろう。

一つは、腰を柔軟にすることである。つまり、可動範囲を最大限に近づけることである。とりわけ股関節の屈曲・伸展(脚を前後に振る)、外転・内転(脚を左右に振る)、外旋・内旋(外に回す、内に回す)である。相対稽古で技をかけるときには、手足を右左規則的に陰陽で、ナンバ(同じ側の手と足が一緒に動く)で、そして体幹をねじらないようにつかう、などに注意しながら、腰が柔軟になるように稽古することである。また、受け身を多く取るのも、効果的である。

相対稽古で腰が充分に柔軟にならなかったり、もっと柔軟にしたいなら、ストレッチ運動、四股踏み、それに山歩きがよいだろう。

二つ目は、腰に力をつけることである。合気道でいう力とは、呼吸力である。簡単にいうと、求心力と遠心力を兼ね備えた力ということであるが、その二方向だけの力ではなく、上下左右前後などなど、他次元の力、つまり、天之浮橋的な力だと考える。しかし、この力は次の段階では変身するようなので、ここでの力は、呼吸力を求心力と遠心力を兼ね備えた力、としておく。

合気道の稽古の目的の一つは、宇宙の法則を見つけ、身につけることであるが、もう一つが、呼吸力の養成である。この呼吸力をつけていくことには終わりがなく、修行の最後までやるものである。

天地の呼吸に合わせて、地から重力を腰に集め、その力を手先に送り、腰で手先を動かして技をつかうのであるが、求心力だけでなく、遠心力もつかって、相手をくっつけてしまい、相手の荷重が自分の腰にかかるように、技をつかっていけばよいだろう。

すべての形(例えば、四方投げや入身投げなど)で呼吸力がつくように稽古していかなければならないが、始めはなかなかむずかしいので、まずは呼吸法からやるのがよい。呼吸法で、呼吸力がつくように鍛錬していくのである。呼吸法とは、呼吸力鍛錬法のことであり、投げたり抑えるのが目的の形(かた)とは違っていることに気づかなければならない。

もちろん、このためには法則に則った体遣い、息づかいをしなければならないし、相手のことを考える“愛”もなければならないだろう。