【第425回】 折れない手

合気道は、肩や胸や腰など相手が触れたところでも技をつかえるし、つかえるようにならなければならないが、基本的には技は手でかける。だから、手は非常に大事である。手が大事である、というのは、手の働きが大事である、ということである。そのためには、手そのものを鍛えることと、手のつかい方が大事になるが、これは結局同じ事であろう。なぜならば、手を鍛えるには正しい手のつかい方をしなければならないし、正しい手のつかい方をしていけば手は鍛えられるからである。

手は人の体の中でもっとも多くつかわれる部位であり、そのためか最も自由に動く部位であろう。指の関節から、手首、肘、肩、肩甲骨、胸鎖関節まで関節同士が直角に動くので、手は多種多様な動作ができる。

だが、手が自由に動くのは普段の日常生活のためにつくられたものであって、武道のために創られたのではないだろう。だから、手を日常生活のように使うのでは、武道の技にならないのである。

技の稽古で、手を日常生活の使い方をしてうまくいかない典型的な例としては、手の関節部、手首、肘のところで折れてしまうことがある。通常のように、手を直線的に使ってしまうからである。

手が折れてしまえば、力が出てくる腰腹や地からの力が、技をかける手先まで伝わらない。だから、部分的な小さな力しか出ないし、また、手先と腰腹との結びが切れてしまって、腰腹で手を遣うこともできなくなる。

折れない手とは、本来のように隣同士の関節が直角、つまり十字に動き合うようにできている関節にロックをし、手を一本にしてつかうようにするものである。ロックするためには、手先を伸ばし、手首から先の手、そして肘から先の腕、さらに肩から下の上腕を45度から90度回転させる。手先を90度回転させれば、上腕は45度ほど回転するから、腕は螺旋で動くことになる。この螺旋で、関節がロックされるわけである。

諸手取り呼吸法で試してみるとわかるが、通常の手の使い方をすると、必ず手は折れるものである。持たせた手を地に垂直に差し出し、そこから手を内でも外でもよいから90度返しながら歩を進めると、手は折れずに、腰からの力が手先に伝わり、相手を引き出す事ができる。

この稽古を続けていけば、折れない手ができていく。また、腰からの力を手先に伝えてつかえるようになる。この場合、手先、腕、上腕と返していくので、手先に力が集中するようになるし、そして、手先から肩、腰まで鍛えることになる。

しかし、相手に相当の力があり、腰でしっかりと諸手で持たれると、手先を十字に返しても相手が動かない場合がある。手先に力を込めれば込めるほど、相手もがんばってくるのである。

うまくできないのは、折れない手の使い方が悪いわけではない。十字に遣った折れない手は、技をつかうための公式法則と考える。つまり、この折れない手の使い方を工夫しなければならないのである。

これまでは折れない手を手先から使っていた。これは力をつけ、相手とぶつかる稽古にはよいが、ひとつ、合気道の法則違反をしているのである。だから、力がある程度つき、手先や手がしっかりしてきたら、次の次元に移らなければならない。法則違反とは、相手との接点を動かしてしまう、ということである。前のやり方では、どうしても相手が抑えている接点を動かすことになってしまう。

相手が持っている接点を動かさずに、相手を動かして技をかけ、倒れてもらうにはどうすればよいか、ということになる。これが、合気道の摩訶不思議の面白さである。

その解答もまた合気道の法則の中にある。つまり、相手との接点である支点の反対側、つまり対照をつかうのである。

手先の対照は腰である。だから、腰からつかうのである。腰、背中、胸鎖関節、肩甲骨、肩、肘、そして最後に、相手が持っている手首を十字に返すのである。手は腰から手先まで折れない一本につかうが、前の使い方とは逆になるわけである。

一本の手を腰からつかうと、相手は違和感を感じないようで、がんばることなく素直についてきてくれる。お互いにハッピーとなるので、これが争わない合気道というものではないかと思う。