【第422回】 天地の息 〜その2〜

天地の息がうまくつかえないと、技は効かないものだ。相手の力や相手自身にぶつかって、相手が倒れなかったり、相手を弾いてしまったり、自分が弾き飛ばされたりしてしまう。

その典型的なものが、片手取りや諸手取り呼吸法の最後の抑えや投げであろう。相手の肩や首にかけた手でそのまま倒そうとしても、相手にがんばられてしまうのである。同様のことは、入り身投げ、天地投げなどでもよく見かける。

どんなに力を込めても、受けの相手がしっかりしていれば倒れないし、力を込めればそれだけ相手は安定してしまうから、倒れてくれないのである。

この問題を解決するのは、「天地の息」である。技をかける際の息は、生産びの「吐いて、吸って、吐く」であるから、まず、腹式呼吸で縦にちょっと吐くのだが、これは相手と結ぶための息であるから、腰腹と結んだ腰腹からの息といえよう。
次は息を吸うわけだが、横の胸式呼吸で息を入れていく。吸う息は(四角)であるが、これは息を入れれば入れるほど受けの相手とくっつき、自分の体が安定し、地としっかり結ばれる。諸手取りの呼吸法などでやると、その感じがよくつかめる。

そして、最後に相手を投げたり抑える時には息を吐くわけだが、実はこれが難しい。ただ息を吐いて相手を投げるのでは、必ず相手とぶつかることになる。ぶつかるというのは、自分の手と相手の接点で争うことである。接点で争わないためには、その接点に力を込めるのではなく、真綿が触れているようにちょっと触れているだけの状態で、接点にある手を動かさず、自分の重心を他方の足に移動するのである。この時は、い(まるい)息を吐かなければならないのである。

い息とは、どこにも引っかからない息であり、詰まるところがない息である。胸式呼吸で吸った息を吐くわけだが、その息をそのまま吐くのではなく、その息を詰まらせないで、その息を地に通しながら、自分の体を落とすのである。上下が空いている筒をストンと落とすような感覚である。その時には、息は出切っている。つまり胸式呼吸から腹式呼吸で落とすのである。

このまるい息づかいをすると、自分の体の全体重が地に落ちるので、物理的にも相当な重みとなる。受けの相手が抵抗を諦めるような、質の重みにもなるようである。

さらに、足が地にしっかり着き、体と地がしっかりと結びつく感じになる。これが、「天の息」であろう。

体と地が結ぶと、息が足を通して地に落ちていき、そして、息を吸うとその息が上に上がり、体に戻ってくる。これが、「地の息」であると考える。

この「天の息」と「地の息」を実感できて、また、天地の息が使えないとうまくできないものに、「四股」がある。従って、「四股」を注意深く練習すれば、「天の息」と「地の息」を身につけることができるだろう。

また、歩く時も天と地の息で歩くことができるようになるだろう。足底が地に着いて、その接点で息が下に行き、上に行き、そこがいわば天之浮橋になるのである。

片手取りや諸手取り呼吸法を、この天地の息でやってみれとよい。力んで力を込めてやらなくとも、受けの相手が喜んで自ら倒れてくれるようになるはずである。

これは、自分の力以上のものが、そのお力をお貸し下さる、と言ってもよいだろう。