【第413回】 腰からの力

合気道は相対で相手に技をかけあって精進していくが、技をかける際には力がいる。合気道には力が要らないなどといわれるが、力が要らない武道などはないだろう。力はあった方がよい。

力にも、いろいろあるが、合気道の技は手でかけるわけだから、手の力、手から発する力から見ていきたいと思う。
まず、腕の力、腕力といわれるものは、肩先から手先までの力である。これは、初心者が使う力といえよう。勿論、この力も大事である。初心者は腕力をつかいながら、手と腕を鍛えていくのがよいだろう。

次の力は、長い手の力である。手を手先から胸鎖関節として使うことによって、出る力である。この力が使えるようになると、肩が貫けたことになって、手先と腹が結ぶようになり、さらに大きい力が出るようになる。

それは、腹からの力である。腹からの力が手先に伝わるようになると、さらに大きい力になる。

諸手取り呼吸法で、力がどのように使われているかを見るとわかる。はじめは腕力でやり、次に長い手、そして腹からの力で技をかける。受けをする場合も、その手を使うのである。

相手である受けに、腕力や長い手でこちらの手を持たれた場合、こちらが腹の力でやれば相手を制することはできるだろう。だが、受けの相手も腹の力でこちらの手を抑えてくると、動けなくなってしまうものだ。腹の力と腹の力がぶつかってしまうと、ある程度の力の差がなければ、相手の手を制することはできなくなってしまうのだ。

相手の力を制する条件は、攻めの相手の力より強い力か異質の力を使うことである。力の量と質が、ものをいうのである。

ここまでは攻めの相手より強い力と異質の力で、相手の力を制することができるわけである。だが、どちらも腹の力によるようになると、同質の力となって、こう着状態になったり、争いになったりする。

この状態を脱却し、先に進むためには、この腹の力よりも上位の異質の力を使わなければならない。それは腰からの力である。腰からの力を手先に伝えて使うのである。

この腰からの力は、それまでの力とは異質の力であるようだ。それまでの腕力や腹の力は、力を出すために力んでしまうような、体力に頼る魄の力といってもよいだろう。それに対し、この腰からの力は相手の力と結んで、相手の気持ちを制する力と言えるだろう。

この腰の力が分かりやすく、会得しやすい稽古は、呼吸法である。片手取り呼吸法、諸手取り呼吸法、坐技呼吸法であるが、坐技呼吸法でどのようになるかを説明してみよう。

  1. 息を吐きながら腰腹で両手を出し、その両手を相手に取らせて、相手と結ぶ
  2. 相手と結んだところで、息を入れながら手の力みを取っていくと、自分の手がその重みで下へと落ちる。手は下降、息が上昇という感じである。
  3. 手が落ちたところで、自分の手と自分の腰が結び、相手の腕が突っ張って、相手が浮き上がってくる。ここで手を急いで上げてしまうと、相手とぶつかってしまうことになるので、相手が浮き上がってくるのをじっくり待つことである。
  4. ここまでが大事であって、後は付属である。大体は受けが自から進んで受けを取るようになるが、手と体を十字に使って収めてもよいし、自由自在にできる。
    初心者は、この最後の相手を投げたり、抑えることだけを目標にしてしまうので、肝心のことが学べないのである。
腰の力を使う稽古が、呼吸法でできたなら、他の形でもできるはずである。四方投げでも、入身投げでも、天地投げでも、使えるようにしなければならない。

この腰の力と先述の力との大きな違いの一つは、それまでの求心力だけではなく、遠心力が加わることである。それまでの力は主に引っ張る力の求心力であるから、引っ張られる受けの相手は、無意識のうちに厭だ厭だと反発する。だが、腰の力は遠心力を伴うことによって、+−(プラマイ)0(ゼロ)の力となる。相手をいわゆる天之浮橋に置くことになるので、相手を気持ちよくするのだと考える。

さらに、腰の力は、自分の体の腰からの力だけではないようである。地からの力、天地の力など、自分自身のものと違う力であるように思えるが、これは今後の課題とする。