【第412回】 中指

これまで、相手に技をかけて効かすためには、体の中心である腰腹と手先を結び、腰腹で手先を十字に使わなければならない、と書いてきた。また、手(手先から腕、そして胸鎖関節まで)を一本で、各関節がバラバラにならないように使わなければならない、とも書いた。

手先を十字に使うためには、手を縦、横、縦・・・と返していかなければならない。縦横十字に返すということは、円の動きをつくり、その中に相手を取りこんでいくわけである。

しかし、ただ手を縦横に返しても円はできない。円には、中心である支点がなければならない。通常は、親指や小指が支点になっているが、実は中指も支点になっている。
そしてこの中指には、これ以外にも予想以上の働きがあるのである。

正面打ち等で手をまっすぐ上げる時に、おおかたの人の手は頭上の真上ではなく、前や横にずれてしまっている。前に出す手も、自分の正中線から離れてしまうことが多い。自分も同じような経験をしたのだが、それを直してくれたのが中指である。

中指の重要なことに気づかせてくれたのは、本部道場で教えておられた有川先生であった。中指の使い方の直接説明などはなかったが、技で示して下さっていたのだ。そのいくつかをここに紹介する。

中指に息と気持ちと力を通すと、手は真上の場合でも、正面の場合でも、正確にその方向を捉えてくれるものだ。他の指にはその働きはないか、難しいようである。

さらに、中指に息と気持ちと力を通すと、腕は一本になる。他の指では腕や肩のどこかに引っかかりができて、力がそこで滞ってしまう。だが、中指だと手先から肩、胸まで一本に通るのである。もちろん、ぶつかるのが悪いというのではない。小指と薬指だと腰腹にぶつかるわけだが、それで力が出る場合もある。

手の指と腕をよく見ると、中指の延長線だけが腕の真ん中を肩まで通っているのがわかるだろう。外から見ても、中指だけは腕と同一方向にあって、腕の延長にあるのである。

さらに、中指に息と気持ちと力を通すと、肘、肩、そして胸と腹が自由になる。中指に息と気持ちと力を通し、中指を支点に手を使って「呼吸法」などをやると、エネルギーがどんどん入ってきて、開祖が『合気真髄』でいわれているように、「五体は宇宙の創造した擬体身魂であるから、宇宙の妙精を吸収し、宇宙と同化しているわけである」ということを感じられるようになる。

中指の重要性は、合気道以外でもいわれている。例えば、明治から昭和にかけて苛烈な修業で剣を究め、名著『日本剣道史』などを著した山田次朗吉は「手の内の秘訣は 中指にある」と言っている。「つまるところ、剣は両手の中指で握るのだ」という。つまり、腕の中心の延長線上に中指がある手の内であれば、腕の働きが即、かつ有効に、剣、竹刀に伝わり、掌中の働きは自由になる、というのである。

一般的には、小指と薬指で竹刀を握るとよいと言われるが、小指に力が入ると前腕に力が入り、肩で持ち上げるような打ち方になるという。だから、打つ瞬間だけ小指を締め、振り上げ、振り下ろす動作は中指を中心にやればよい、ということのようだ。

バイオリンの弓も、弓の「返し」の際に中指が主導的な役割を果たすという。中指が最初に動いて、他の指がそれについて行くらしいが、「返し」のときばかりでなく、移弦の際にも中指が弓の動きを主導するなど、中指をうまくつかうことは大事なようである。

指の動きには、手掌側への屈曲(手を握る)と、手背側への伸展(手を開く)がある。さらに、中指を中心として他の指を開いていく外転と、指を近づけながら指の間を閉じていく内転がある。

ところが、中心となる中指は、人差指側に傾けても薬指側に傾けても外転であり、内転はないそうである。さらに、親指、人差指、小指は独立した伸筋を持つのに、中指と薬指は独自の伸筋を持たないので、中指と薬指は動きの巧緻性という点では劣るという

中指は屈筋,伸展、外転はあっても、内転はないということであるが、指の中で動きにくいというより、中心にどんといすわっている感じを受ける。

中指を中心に、他の指を内転、外転させ、手の平を縦横に返し、円をつくり、そして中指に息と気持ちと力を通し、中指を意識して技をかけていくとよいと考える。