【第39回】 下半身を鍛える

人は今、足を使わなくなった。交通が発達し、階段はエスカレーターやエレベーターにかわり、会社ではほとんど机にすわって仕事をし、歩くのは食事に出るときとトイレに行くぐらいである。家の中は洋式化され座ることもあまりなくなり、トイレも洋式ではしゃがむこともなくなった。

それに比べて手はよく使うようである。足は止まっていても動かなくとも、手は動いていることが多い。手は自分の考えていることを実行するので、なにか考えていれば手を使うことになる。

合気道の稽古にも、この傾向が現れている。手はよく動くが、足が動いていないのである。手は頭で考えれば、そのように動いてくれるが、足は手ほど思うように動いてくれないものである。

合気道の技を掛けるときには手も重要であるが、それよりも足さばきが重要である。極端にいえば、技は足で決まるということさえできるだろう。従って、足がうまく働いてくれるようにしなければならない。それがうまく働くためには、まず普段使わないために弱くなってきている足と腰を鍛えなければならない。足腰の鍛錬は、歩くことが基本である。歩くにも武道歩きである「ナンバ」で歩くのがいい。「ナンバ」の歩き方が分からなければ、山歩きで覚えればいい。山歩きは「ナンバ」で歩くのが一番安全で歩きやすい歩法なので、自然にできるはずだ。

日頃、少しでも時間をつくっては歩き、エレベーターやエスカレーターの代わりに極力階段を使うように心がけなければならない。また、歩くときには足に意識を入れ、地面にそっと接するように、地球とのむすびを意識するとよい。

本格的に足腰を鍛えたいと思うなら、毎日、四股を踏むといい。四股は魄の最高の武道である相撲の身体をつくる基本のひとつ方法である。相撲取りのような柔らかい、強靭な下半身をつくるには最適な鍛錬法であろう。四股を踏むと片足で全体重を支えるので、力がつくし、バランス感覚が養われる。この後、仕切りの型をとると股が割れて、腰が落ち、股関節が柔軟で強靭になる。

それから、相撲の「てっぽう」で突きながら腰を下ろして歩くといい。回数はやればやるだけの効果があるわけだが、普通の人はあまり時間もとれないだろうし、精々100回ぐらいでいいのではないかと思う。四股は家の中でもできるが、近所まわりのことも考えて、足を床に下ろす時は音がしないようにそっと下ろす。意識が足に行くので、所謂、気が足に通るようにもなる。

これらの鍛錬稽古で大切なことは、毎日続けることと、鍛錬稽古を技と連動するようにやることである。鍛錬稽古は鍛錬稽古、技の稽古は技の稽古と分かれていては意味がない。

武道は体ができていなければ難しい。特に、下半身の鍛錬は大事である。また、下半身がしっかりすると背筋が伸び姿勢がよくなる。姿勢が悪くなってきたら、下半身を鍛えるとよい。