【第375回】 腹も十字で

合気道の技は、円の動きの巡り合わせで出てくる。いくつかの円が組み合わされて技になる、ということである。自分の円の中に相手を取り込んで、相手と一体化するのである。

円ができるためには中心がなければならないが、一番大事なことは、体を十字に使うことだろう。体の各部位を十字十字と使って円を作り、相手とどんどん一体化していくのである。

例えば、片手取り呼吸法の場合には、相手に持たせた小手を、縦→横→縦と十字につかって、小さな円(縦の円)をつくる。次に、肩を中心にした円(横の円)をつくり、そして腰腹が中心となる円(縦の円)で、相手と一体化し、相手が倒れることになるわけである。

しかし、相手を自分の円の中に取り込むのは、容易ではない。それは相手の円の中に突入してしまうからである。典型的な突入の例としては、四方投げがある。相手の肩が中心となっている相手の円内に入ってしまうと、相手の腕が相手の体に密着することになり、相手を強くしてしまう。そうなると、相手の腕を挙げようとしても、挙がらなくなる。その上、こちらの顔面ががら空きになって、相手の拳が顔に入ってしまうことになる。

円は自分だけでなく、相手も持っていることを忘れてはならない。相手の円に入り込まないようにするのはもちろんだが、相手の円もよく認識して、その円を利用しなければならない。相手と接し、そして相手を導くためには、とりわけ相手と自分の共通の円となる接線をつかわなければならない。

技をつかう最初にも、共通の円をつかわなければならないなど、注意しなければならないことも多い。だが、相手が倒れるまでの過程と、最後の倒れるための円にも、注意しなければならない。とりわけ、最後の円は注意すべきである。

入身投げや小手返し等でよく見られるが、自分の円の中に相手を取り込んで、そこから投げて決めようとしても、相手が居ついていて動かすことができないことがある。原因としては、息づかい、左右陰陽の手足づかい等いろいろあるだろうが、最大の原因は、腹が十字につかわれていないことだと見る。

腹が十字とは、足先の方向(縦)に対して腰腹、骨盤(横)が直角になることである。それが、技をかけた最後のところで十字にならず、足先と腹の向いている方向がずれてしまうのである。

腹が十字になるということは、腰を十字にするということである。腰が足の真上にのり、足先の方向に向かわなければならない。腰が十字におさまると、そこで腰を中心とした円ができ、相手はその円を回ることになって倒れるのである。

これは一見複雑で難しそうであるが、通常やっていることであり、不思議なことではない。つまり、通常の歩行とあまり変わりないのである。

両足を揃えて立つと、足の方向と腰腹、骨盤は直角の十字になるだろう。歩く場合は、つま先は若干外側に向かうが、腰腹も自動的にその方向に向かっているものだ。足先だけが外側を向いて進み、腹は直立の時と同様に正面を向いたままになっているのは、老化が始まったり、体が硬くなってきたなど、正常でなくなった状態といえよう。

腹が十字になるようにつかっていかなければならないが、腰、股関節が硬ければ、使いたくても使えないだろう。そのためには、柔軟になるように鍛えなければならない。技の稽古で注意して鍛えていくのがよいが、特によいと思われる稽古は、やはり呼吸法である。片手取り、諸手取りなどあるが、最も効果的と思われるものは坐技呼吸法である。

相手に手を持たせたら、腹が膝に十字になるまで腰を回し、そこから反転して、反対側の膝に腹が十字になるまで回すのである。この感覚が身につけば、技の練磨に取り入れていけばよい。