【第371回】 腰は体の要 (続)

第366回で「腰は体の要」を書いたが、あれから腰に関していくつかの発見や体験があったり、思いつきがあったので、今回はその続きを書きたいと思う。

すでに書いたように、腰は体の要であり、日常生活においても、合気道の稽古においても非常に重要な部位であるが、腰だけということでは漠然としているだろう。それ故、もう一歩進めて、腰のどこが大事でそれをどう鍛えればよいかを見てみたいと思う。

体の要である腰で、重要と思うのは、殿筋の内の「中殿筋」である。中殿筋は、大殿筋より深部にあって、大殿筋に覆われている。動きながらここを触ってみるとわかるだろう。上部にある大殿筋は、ほとんど動かない。

中殿筋は、股関節を外転し、歩行時に接地側の足で体重を支える役割を持つ、ということだから、合気道の撞木による体重移動の歩法に、この中殿筋の働きがいかに重要かがわかる。

最近、変わってきたと驚いているのが、この中殿筋である。お尻の上部でベルトの下あたりの筋肉を触ってみると、こんもりと盛り上がってきているのである。以前から盛り上がっているのに気がつかなかったのかも知れないが、この辺りを腰の要と意識して、体をつかったり、息をするようになったから、変わってきたのであろう。

この中殿筋ができてから、歩を進めるのが非常に楽になった。足からの力が、ここに集まるのが実感できる。技の稽古でも、地からの抗力はここに吸収されて、他の部位に負担をかけない。もし中殿筋が働きを十分果たさないと、足からの力は脊椎などに及んで、腰を痛めることにもなりかねない。腰痛などは、この中殿筋が弱いことが原因のように思える。

中殿筋がしっかりしてくると、稽古でも、受けを取っても、技をかけても、疲れは少なくなる。また、山や町を長時間歩いても、疲れない。というより、相当長い距離でも中殿筋が刺激されて、股関節も楽になり、歩くことが気持ちよくなる。

下肢からの力を集めた中殿筋は、その力を背中(菱形筋)、肩、上腕、腕から手先に流す。また、手に加わった力も腕、上腕、肩、菱形筋を通って中殿筋に集まる。中殿筋は体の末端からの力を集め、その力を貯め、そして倍増して必要な部位に出力する、力の要ということになるだろう。

中殿筋を鍛えるためには、ここの中殿筋を意識して動くことである。歩く時も、階段をのぼる時もここを意識し、ここに足からの力を集めるように歩き、また、ここから足が出るように歩くのである。つまり、中殿筋で歩くのである。

合気道の稽古で受けや技をかける際には、足にかかる力を中殿筋に吸収させ、立ち上がったり、歩を進める際もこの要でやらなければならない。中殿筋が動きの中心になるのである。

中殿筋を鍛えたいなら、木刀、杖、鍛錬棒の素振りをここで振るとよい。息を吸って振り上げ、振り下ろすとき吐く、を中殿筋でやるのである。重い鍛錬棒などを振る場合は、中殿筋で息に合わせて振らなければ、体を痛めてしまう。

また、四股踏みも効果がある。力と息と気持ちをここでコントロールするのである。一,二年では大した変化はないだろうから、三,四年は続けてやらなければならないだろう。

技を使うときも、この中殿筋をつかわなければならない。相手と結び、呼吸力を発揮するのは中殿筋である。それがよくわかるのは、呼吸法であろう。片手・諸手呼吸法でも坐技呼吸法でも、体の要である腰の中殿筋をつかうと、相手と結び、強力な合気の力が出てくる。これを手先やそれ以外からの力でやると、相手を弾き飛ばしてしまう腕力になってしまう。

技をかける手は中殿筋を中心に動き、中殿筋によって動かなければならないが、息も中殿筋が中心になる。腰の中殿筋の反対側に腹があり、息は腹でするといわれるが、その腹の息の出し入れの支点は中殿筋であると考える。

中殿筋に意識を入れ、呼吸をすると、十字の呼吸、つまり、縦の腹式呼吸と横の胸式呼吸ができるはずである。とりわけ、胸式呼吸で大きな遠心力を出す場合には、この中殿筋で大きく息を吸うつもりでやらなければならない。

このように腰、とりわけ中殿筋は、力が集まり、そして力を流し出す体の要であり、また、息の中心ということになるだろう。そして、中殿筋で技をかけ、息を使うということになるから、体の要に間違いないだろう。