【第368回】 胸式呼吸の働きと効果
胸式呼吸とは、「吸う」時に胸を広げてお腹をへこませ、「吐く」時には胸をへこませ、お腹を膨らませる息づかいである。
前回の「呼吸も十字に」で書いたように、胸式呼吸は横、腹式呼吸は縦の呼吸であり、合気道の呼吸は縦・横十字に使わなければならないと考える。
この十字の呼吸は、合気道の技だけではない。ストレッチなど柔軟運動や関節柔軟法で手首・足首・首等を鍛える際でも、胸式呼吸も使わなければならない。つまり、縦(腹式呼吸で吐く)― 横(胸式呼吸で吸う)― 縦(腹式呼吸で吐く)の十字の呼吸法である。しかし、だいたいは縦―縦―縦とつかっているので、筋肉は反発して硬くなり、柔軟運動にならないのである。
前回書いたように、胸式呼吸をつかえば、二教裏、半身半立ち四方投げ、諸手取り呼吸法等がうまくかかるのであるが、そこには何か他にないような、特別な働きと効果が胸式呼吸にはあるように思う。
米心理学系メディア「Psychology Today」には、ため息はコミュニケーションであるだけではなく、気分を良くするための呼吸法でもある、とあるという。肉体的な息づかいと精神的な心の世界には、緊密なつながりがあるようである。
胸式呼吸、とりわけ胸式呼吸での吸気で、これまでに感じたこと、見つけた、身につけたことを書き出してみよう。
- 相手とくっつく、引力が出る:まず縦の呼吸で相手と結ぶのだが、そのまま縦(腹式呼吸)でやると、せっかく結んだものが切れてしまう。結びを切らないため、相手を最後までくっつけておくためには、縦の後は胸式呼吸をつかわなければならない。
- 遠心力が出る:通常はどうしても求心力だけの一面的力で、技をかけたり、得物をつかったりするものだ。だが、合気道の力は呼吸力であり、求心力と遠心力を兼ね備えた力である。この遠心力は、胸式呼吸の方が身につけやすいように思える。
- 己の筋肉をリラックスさせる:横の胸式呼吸で息を吸うと、深層筋が働き、表層筋がお休みになるので、身体は柔軟になる。
- 深層筋が鍛えられる:上記と関連して、胸式呼吸、特に吸気によって、深層筋が鍛えられるように思われる。
- 自分の争う心が消え、相手と結ぼうとする:横の胸式呼吸で息を吸うと、相手と結び、己と一体化し、敵ではなく自分の一部になるから、相手を自分の身体と同様に、大事に扱うことになる
- 相手の争う心をなくす(相手の意識ではなく無意識に働きかける):相手が意識では頑張ろうとしても、胸式呼吸で技をつかうと、その争う気持ちがなくなるようである。これは(相手の意識に)無意識が優先するということだろう。
- 相手をいい気分にする:実際に胸式呼吸で相手と結んで技をかけると、相手は気持ちよさそうに倒れてくれるものである。
- ものがよく見える:草木や花を胸式呼吸で息を吸いながらみると、ふだんとは違ってよく見えるし、見ているモノが近寄り、一緒になるように感じる。極端に言えば、姿形と心が見えるということだろう。
- 見えないものが見える:お日様を直接見ることは危険であるといわれるが、胸式呼吸で息を吸いながら見ると、まぶしくなく見ることができる。息を腹式呼吸で吐きながら見ると、まぶしくて見えないのである。
胸式呼吸には、何か不思議な力があるように思われるのである。合気道の稽古を通し、また、道場の外でも、ますます研究する必要があるようである。
次回は、胸式呼吸をする胸や肺について書いてみたいと思う。
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