【第365回】 テコの原理、支点・力点・作用点

合気道の技は宇宙の条理、つまり宇宙の法則を形にしているから、その法則に則った業と技とを使わなければならない。その業と技をつかう人の身体も、その法則に則ってできているようであるし、身体の各部位も、そのための役割に沿って活動するようにできているようである。

武道的な観点から見ても、身体は主に骨と関節と筋肉で動いているといってよいだろう。骨は体を支えたり、相手を抑えたりする仕事をするもの、関節はテコの支点、そして、筋肉は力を及ぼす原動力ということになろう。

日本鋼管病院の川島敏生博士は「身体の中では、骨がレバー(作用点)、関節が回転軸(支点)、筋収縮が力(力点)の役割を担っている」(『筋肉・関節の動きとしくみ事典』(成美堂出版))と述べている。

また、博士は「身体は重力に対して動こうとするとき、無意識に「テコの原理」を使っている。つまり、テコを効率よく使うことで筋の収縮力を最大限に生かしているのである」(同上)と言う。

この骨と関節と筋肉の関係、およびこの「テコの原理」は、時代や地域や民族に関係がなく通用する法則、「宇宙の法則」のはずである。

武道である合気道は、小さい力を大きく使い、力をむだなく効率よく使うのが原則となる。だから、骨と関節と筋肉の役割や、さらに「テコの原理」を最大限に活かして、技の練磨をしていかなければならないだろう。

では、これをどのように稽古に結びつけていけばよいか、また、そのためにはどのような稽古していけばよいか、を考えてみることにする。

まず、骨と関節と筋肉にその役割を果たしてもらうために、ある程度の鍛錬が必要だろう。初めは力一杯の稽古をし、魄の稽古で鍛えることである。

次に、骨と関節と筋肉を意識して、別々に鍛錬するが、骨でも関節でも筋肉でもさらに分解し、各部位ごとに鍛錬する。そうすれば自分の強いところと弱いところが分るから、弱いところを一層鍛錬すればよい。

鍛錬は部位ごとにやるのだが、技で使う場合は、それらの部位を統合して使わなければならない。骨と関節と筋肉を統合して、使うのである。もちろん、ある部位、例えば、手首や前腕などの部位での稽古はあるし、これもできるようにしなければならないが、それは少し難しいので後日ということにしてもいいだろう。

骨と関節と筋肉がその役割を果たせるぐらいに鍛えられれば、次は「テコの原理」で大きい力を出せるようにする。テコには支点、力点、作用点がある。この三つの点がそれぞれの役割を果たさなければ、よい技は出ないことになる。

「テコ」では、とりわけ支点が大事であろう。そこで、まず支点について考えてみることにする。

支点には、次のような特徴があるように思える。「腰投げ」を例にして説明することにする。

  1. 支点は変わる、つまり移動する:
    先ず地に足が着き、着いた足が支点となる。そして、支点の足から力が湧きだし、上へ上がってくると、次の膝が支点となり、さらに腰が支点となる。支点は移動するのである。
  2. 支点は複数ある:
    1は、腰が支点となったわけであるが、足も力点とはなるものの、支点としての役割も果たす。さらに、手が相手の手と接していれば、その手が支点となる。従って、手と腰と足が支点となることになる。
    支点が複数ある物としては、いろいろあげられる。例えば、身近なものとしては爪切りがあり、支点は2つあって、力点も作用点も2つある。
    ただし、人の場合は支点が複数あっても、それを同時に支点として使うことはできない。若干の時間的なズレが出るはずである。
  3. 支点は支点の役割だけでなく、力点、そして作用点ともなる:
    足ははじめは支点となるが、そこから力を発生させる力点ともなり、そして、作用点として働くことになる。つまり、支点と力点と作用点の役割を持つことになる。
相対での合気道の技の稽古での支点としては、一つは相手との接点である。相手が持ったり、抑えたり、こちらが接触している個所である。典型的な例は「片手取り」での手首である。この場合は、接点の手首が支点、こちらの身体全体が力点、相手全体が作用点となる。従って、力点では自分の体重をいかに効率よく相手に伝えるかということになる。そのためには、相手の中心と結ぶ、身体を陰陽につかう、等などが大事になる。

作用点になる相手を考えず、自分の身体だけで考えた場合、例えば、相手がこちらの肘をつかんだとすると、肘が支点となり、力を発生させる力点は肘から上(上腕、体幹、下肢)となり、作用点は肘から下(前腕、手先)になる。この場合の力点は通常は上腕三頭筋と肘筋となるだろうが、武道として最大の力を発生させるためには、支点から上の力を使うべきだと考える。強いてこの力点を定義するならば、肘から上(上腕、体幹、下肢)で発生する力を上腕三頭筋や肘筋に集めて、力点として使うということになるだろう。他の部位を抑えられたり、掴まれた場合も、同じであるはずだ。

次に、支点と作用点が同じ場合である。例えば、肩取りなどで相手に肩をつかまれたならば、初めはそこが支点であるが、最後は相手を倒したり制する作用点となる。時間差は多少あるが、支点から力点、そして相手を制する作用点として働く。

しかしながら、力を出す力点は支点の肩であるが、実際には足のはずである。足から体重の抗力を内転筋群から股関節、脊柱、菱形筋、上腕へと伝えていくのである。つまり、足からの力を肩に集中して、力を発生させるということになるだろう。従って、力点は支点の上(肩、腰、下肢など)ということになる。

技をかけるに際して、支点を変えることによって技をかけていくことができる、ということである。

例えば、諸手取りで相手がこちらの手をしっかりつかんだ場合、そのつかまれた手は容易には動かないだろう。手を動かし、相手の力を抜くためには、持たれた手の平を縦、横、縦と十字に反さなければならないが、手を縦から横に反す際は親指が支点で小指側が力点、横から縦に反す際は小指が支点、親指側が力点・・・となれば、作用点にある相手の力が抜け、こちらと一体となってくれる。

しかし、身体には大事な支点がある。それは、腰である。どんな技を使うにも、腰に意識を入れなければ丹田に力は入らないし、股関節も十分可動せず、足からの力が手まで伝わりにくいし、技が効きにくいものである。支点は変わるものであり、複数あるが、腰は身体の要であり支点であるだけではなく、力点と作用点を十分に機能させるための最重要支点であろう。

諸手取り呼吸法でも、片手取りの四方投げでも、前述のように相手との接点を支点としてつかうこともできるが、自分の腰を支点にして力を出し、技をかけることである。支点の腰の下から力を発生させ、腰から上へと力を作用させるのである。相手とつながっていれば、相手はその作用点となる。

また、手も足も、腰と結んでいなければ技は使えない。腰が手足の支点となり、また力を発生する力点となって、手足が作用点として働くのである。

力を有効に、効率的につかう方法の一つは、この「テコの原理」を身につけることであろう。支点、力点、作用点の位置関係はいろいろあるようだが、支点、力点、作用点を技ごとに把握し、大きい力を出すためにどうすればよいか、支点をどう変えていけばよいのか、そして、その結果、作用点では相手がいかなる態勢になるのか、などを研究することである。

参考文献 『筋肉・関節の動きとしくみ事典』(成美堂出版))