【第35回】 自分の体重を技に

合気道の稽古では、体の大きさや力の強さなどは関係ないとか、関係なくならなければならないと言われている。しかし、実際の稽古では自分より体の大きな人や力のある人を相手にしてやる場合、よほど熟達していないと、やりにくいだろうし、技がなかなか効かないことが多いだろう。

合気道の稽古は、日常の生活とは異なる非日常的なことである。日常的な思考で稽古をすれば、力の大きいもの、腕っ節の強いものには敵わない。
合気道の稽古では、非日常的な思考と力を使わなければならない。

稽古で使う力を考えてみると、まず、小手先からの力や、腕の力(手先から肩までの力)がある。これは日常使う力であり、もっとも使いやすい力である。初心者のうちはどうしてもこの力に頼ってしまうが、それでは体が大きかったり、腕っ節の強い相手には技が効かないことになる。それで負けまいとして腕立てをしたり、木刀を振って筋肉をつけようとするが、腕の力には限界があることが分かるだろう。それに気付かずに筋トレを続ければ肩やヒジを痛めることになる。

そこで、腕力より強い力を使わなければならないわけである。量ではなく、質の転換である。非日常的な力である。肩を貫いての菱形筋からの力である。この力は深層筋からのものである。この力はこの部分と対話しながら意識して鍛えなければならないし、腕の力を忘れなくてはならないので、遅々として上達を感じることもできない。時として退歩しているとしか思えないこともよくある。しかし、この力が使えるようになると、体の大小などはあまり関係なくなってくる。

3つ目はこの菱形筋より強い力である。自分の体重である。自分の体重が相手に伝われば、どんなに腕力がある相手でも、こちらの体重を手で押さえきることはできない。問題は自分の体重をいかに相手に伝えるかである。

体重を技にするためには、リキまず、肩を貫き、足を居つかせず、体重を左右の足の上に移動して使うほかに、自然(大地)とむすぶことも大切である。