【第345回】 生産びの息遣い
前回「筋肉、気持ち、息 − 魄から魂へ」で、魄を裏にし、魂を表に出して技をつかうには、息遣いが大事であるが、その息遣いは日常のものとは違うと書いた。では、どのような息遣いをすればよいのか、を考えてみたいと思う。
問題提起とその問題解決のカギは、ほとんどすべてが開祖の言葉にある。この息遣いに関しても、開祖は次のようにいわれている。
「日本には日本の教えがあります。太古の昔から。それを稽古するのが合気道であります。昔の行者などは生産び(いくむすび)といいました。イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸う。それで全部、自分の仕事をするのです。」(武産合気)
つまり、この中に息遣いの回答があるわけである。開祖ご自身が命名されたのではないようだが、昔の行者が行なっていた息遣いとその呼称「生産び」を取り入れられたと考えてよいだろう。技は、この「生産び」でかけていかなければならないことになる。
「生産び」の息遣いは「イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸う」のであるから、これを技でつかってみると次のようになるだろう。
前回は「諸手取り呼吸法」を例にして説明したので、ここでも「諸手取り呼吸法」を例とする。
- 先ず、持たせる手をイと息を吐いて、相手に出し持たせる
- 持たせた手をクと吸いながら、手を縦から横に反す
- ムと吐きながら、手を縦に反し、相手の喉や肩あたりまで振り上げる
- 相手の喉や肩に触れたらスと吸う(息を下腹に入れる)と、相手がくっつき、相手の力が抜ける
- 相手との接点に力を加えずに、腰からの体重を接点にある手にのせると、相手は倒れる。これが最後のビと吐くことになるはずだ。
これで、一つの仕事(「諸手取り呼吸法」)を「イクムスビ」でやったことになる。
この「イクムスビ」の息遣いは、他の合気道の基本技にも応用できるはずである。四方投げ、入身投げ、一教などなども、この息遣いでやらなければならない。というよりは、この「イクムスビ」の息遣いに自分を入れ、技をはめ込んでいかなければならないのである。
イクムスビで技がつかえるようになれば、「イクム」でも、また、「イ」だけでも、技を使うことができるはずだ。早技や敵を倒す場合は、一息でやらなければならない。かつて本部道場で教えておられた有川師範は「合気道の特色はシンプルで、一呼吸で終わる。一動作を一呼吸でやるんだ」と言われていた。このイの吐く息だけで、技がきまってしまうということである。
しかし、この為には、「イクムスビ(生産び)」できちんと技をつかう稽古をしっかりやらなければならない。
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