【第318回】 腹を鍛える

合気道が上達するためには、合気の体をつくっていかなければならない。上達に終わりがないのと同様、これで体ができたということもない。だから、いつまでも体を鍛えていかなければならないことになる。

人の体の末端にある手足を鍛えるのは、そう難しくはないが、体の中心である腰や腹を鍛えるのは、手足ほど容易ではないだろう。

合気道においては、腹を鍛えるのは難しいはずだ。腹を鍛えようとすれば、精々腹筋運動をするぐらいだろう。もちろん腹筋運動はやらないよりやった方がよいかもしれないが、合気道的な鍛錬法ではない。それは現代科学のやり方であり、ものを部分々々に分けて、バラバラに鍛えているからである。これでは、腹は鍛えられても、他の部位、例えば手はまた違った方法で鍛えなければならなくなる。

もう一つの問題は、このように腹筋で腹を鍛えたとしても、技遣いにはあまり関係ないことである。腹筋運動を多くやったから技がうまくなったという人は聞かない。もし、腹筋運動をやればやるほど技がうまくなるなら、もっと多くの人がやっているはずである。腹筋運動で確かにある程度の腹筋はつくだろうが、合気道における腹の鍛え方ではないだろう。

合気道では、体を有機的に鍛えなければならないと考える。合気道の技の形稽古は、体が有機的に鍛えられるようにできているはずである。

基本的には、形稽古を続けることによって体ができていかなければならないし、腹もできていかなければならない。開祖が居られたころは、誰でも稽古をしているうちに、自然と体ができていたと思う。しかし、開祖が居られなくなって半世紀近く経った現在では、事情が変わってきているようだ。昔のようにただ稽古をしていても、体はできていかないようである。体をつくるためには、意識して体をつかっていかなければならないだろう。

合気道の技は手でかけるわけであるが、手で技をかけることが腰腹を鍛えることになるはずである。なぜならば、手と腰腹は結んでいるので、手に力が加われば、その力(抗力)は腰腹に集まり、腰腹が鍛えられることになるからである。手先に力を出す時は、手と結んでいる腰腹からの力をつかうことになるので、やはり腰腹が鍛えられる。諸手取り呼吸法などは、最適な稽古法といえよう。

手で腰腹を鍛えられるような有機的な稽古ができるためには、体の各部位を腰腹と結んで、そして腰腹から動かすのだが、腰腹との結びが切れないように動かさなければならない。

次に、腹の鍛え方である。合気道の技を使うための動きは三角法で、撞木で斜に斜めに進んでいくが、この体の偏向を速やかにし、技にするのが「腹」である。

体の中心にある腹をすばやく返すことで、素早い技となる。すべての技は、腰腹から動かさなければならないが、その腰腹と手先が結んでいるので、末端の手の動きはさらに早くなる。手をいくら早く振りまわしても、早い動きにはならない。

合気道の形稽古はもちろんだが、入身転換運動、木剣や杖の切り返しなどでも、腹の切れを鍛えるとよいだろう。

腹を鍛えるとは、上に書いたように、まず腹に力をつける、次に、腹の返しの切れをよくする、ということだが、もうひとつ鍛え方がある。

それは、腹の張力である。臍から下の下腹を張ったり緩めたりして息の出し入れをして、腹を鍛えるのである。このためには息に合わせて動くことであり、また、息は下腹でしなければならない。動きに合わせて息をしたり、帯が上にずれるうちは、難しいだろう。